ミラノの新シチリア料理店「シケライア」
モダン・シチリア料理という言葉が聞かれるようになったのはいつ頃からだろうか?90年代頃までシチリアを代表する名店といえばモンデッロにあった「チャールストン」とリーパリ島の「フィリッピーノ」、その後登場した「イル・ムリナッツォ」のニノ・グラッツィアーノや「ドゥオモ」のチッチョ・スルターノがその火付け役だったのではないだろうか。彼らの功績や流通の発達もあってか、その後シチリア料理は数多くの食材や伝統料理がイタリア中のシェフをひきつけ、様々な形で多くのイタリア料理の中に融合するようになった。ミラノにおいてもシチリア料理の存在感はつねに際立ち、シチリア産の新鮮な魚介類がミラノを通して流通されるのは東京と同じ道理で、ミラノにおいては比較的容易にシチリア料理に触れることができるのである。 ガリバルディ地区にある「シケライア」はそうしたモダン・シチリア料理の流れを汲む店で、シェフのフェデリコ・ラ・パッリア Federico La Pagliaは若干29才ながらIdentita Goloseの2018年度最優秀サプライズ・シェフに選ばれた旬の料理人。かつてハインツ・ベック、そして日本のブルガリ イル リストランテ ルカ ファンティンで働いた経験もある。ちなみに「シケライア」とはギリシャ語でシチリアのことだが、同じくシチリア弁でSIKE=サボテンの実 Fico d’India、ELAIA=オリーブの木、というどちらもシチリアのシンボル2つを組み合わせた言葉でもある。 過日訪れた「シケライア」での料理はこんな感じだ。まずストゥッツィッキーニとして一口サイズで登場したのがひよこ豆のペーストをキューブ上に揚げたパレルモを代表するストリートフード、パネッレ。続く前菜は「ヒメジとカポナータ」、カポナータはナスやトマトなどを一緒に煮込むのではなく、ナスのグリルを薄く層にして松の実やレーズンをトッピング、トマトの種の周囲にある酸味ある水分Acua di Pomodoroで酸味を加えたものだった。「カラマロのロースト、カボチャとアマーロ・アヴェルナのリドゥツィオーネ」は切れ目を入れたヤリイカに火を入れ、北イタリアの旬の食材であるカボチャをテクスチャーを変えて2種類添え、シチリアを代表するアマーロであるアヴェルナを煮詰めたが添えてあった。 パスタは「チーマ・ディ・ラーパとマッコ・ディ・ファーヴェ、ヒメジ、ネレッロ・マスカレーゼのリドゥツィオーネのスパゲッティ」。日本の菜の花に似た苦味のあるチーマ・ディ・ラーパと、乾燥そら豆を戻してピューレ状にした、豆の甘みが際立つマッコ・ディ・ファーヴェ、そして限りなく生に近いヒメジにエトナ山の土着品種であるネレッロ・マスカレーゼを煮詰めたソース。セコンドは「真鯛のベッカフィーコ、フィノッキオのグリル」は真鯛を例のベッカフィーコ状にしたのではなく、真鯛のローストにイワシのベッカフィーコのソース、そしてフィノッキオのピューレで食べる料理だった。ドルチェは「ピスタイオのジェラート」とシチリア伝統菓子の「カッサータ・シケライア」。リコッタ・クリームとオレンジやチェードロなどのフルーツの砂糖漬け、そして膜状に薄く伸ばしたマジパンが多い、一口サイズのチョコレートがトッピングされた見た目は全く違うが口に入れると確かにカッサータになる、変化形カッサータだった。 ミラノに伝統的シチリア料理、例えば「イワシのブカティーニ」とか「パスタ・アッラ・ノルマ」を出す店はいくつかあるが、そうした老舗とは一線を画したモダン・シチリア料理を好む人にはいいかもしれない。とかく伝統料理を再解釈した「モダン」料理は批判されがちなイタリアだが、特にシチリア料理に関しては熱狂的ファンが多いのでそのハードルはさらに一段階高い。しかしこうしたモダン・シチリア料理の中に散りばめられたシチリア的要素やキーワードを探しながら食べるのはなかなか楽しい作業でもある。普段とは違うシチリア料理を楽しみたい方向け。

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