サルデーニャ!10カステルサルド、籠の博物館
国道131号線に乗り、サッサリ方面を目指す。目的地はカステルサルド、岬の上に築かれた城塞の町で、城塞内部にある籠博物館を訪れるのだ。カステルサルドは、ビザンチン支配後の12世紀にジェノヴァの貴族ドーリア家によって建設され、その当時はカステルジェノヴェーゼと呼ばれた。その後、15世紀中頃にスペインが支配するようになるとカステッララゴネーゼと名が変わる。そして18世紀サヴォイ家統治時代に、現在の名に落ち着いた。名前の変遷はあれど、町としての機能は軍事的要衝であったことには変わりない。しかし、今のカステルサルドは、魚介料理と手編みの籠を始めとする手工芸品が自慢の観光地だ。 その日は日曜日、天候は不安定。カステルサルドに着いた時は雨だった。観光シーズンではない、天気の悪い週末は、死んだような町である。夏場は渋滞する道も、すれ違う車がちらほらという程度。旅するならこういう時がいい。熱に浮かされたようなハイシーズンだと、何もわからないうちに時間が過ぎてしまう。城塞入り口あたりで車を停める場所を見つけ、徒歩で博物館へと向う。途中の土産物屋でおばあさんに「どこへ行きなさる」と声をかけられる。博物館へ、と答えると、「今日は籠編みのデモンストレーションはないのよ、残念ねぇ」と言う。聞けば、そのおばあさんは平日は博物館内で籠を編んでいるらしい。 この博物館では、数は多くはないけれどサルデーニャの伝統的なモチーフを編み込んだ籠をひととおり見ることが出来る。幾何学模様や、伝説上の鳥(カラスに似ている)のモチーフ、天然素材で染めた赤、青、緑、黒。印象としてはアフリカの民芸っぽい。しかし同時にモダンでもある。今の暮らしに充分使えると思う。買えるものなら買いたいと思うものもあった。サルデーニャの籠には、用途上男籠と女籠の二種類がある。男籠は農作業や漁に用いる労働の道具、女籠は暮らしの中で使う道具である。殊に後者は、暮らしを彩るものとして、模様や染色に工夫が施され、緻密で美しいものへと発展した。素材は身の回りにあるもの、つまり近くの野原や湿原に生えるイグサ、小型の棕櫚、アスフォデル(ユリ科の植物)、葦、柳、ミルト(ギンバイカ)、ラフィア、麦わらなど。籠作りが特に発達しているカステルサルドではラフィアが、中部内陸バルバージアではアスフォデル、オリスターノ近郊の湿地帯ではイグサや湿原に生える草、カリアリ近郊では麦わら、といったように素材の特徴が出てくる。そのほか島全土で柳やオリーブから細くひも状に切り出したものがよく使われる。 先に述べたように、幾何学模様や鳥などのモチーフも面白いが、装飾品としての価値が高まったのは、底面にカラフルな刺繍を施した布を縫い付けたものが登場してからだ。サント・エフィジオの祭りで女性達が身につけていたベストを彷彿させる艶やかな刺繍布を張った籠は、壁に掛けるインテリア小物である。個人的には、道具としての籠に興味があるのだが、現在売られているものの大半はこうした装飾品が主流になっている。籠についての基本的な知識は頭に入ったので、後は実際に編んでいるところを見るべく、南下する。その前にもう一つアグリトゥリズモに立ち寄ることになっていた。SAPORITAをもっと見る
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