パレルモ、路傍の料理スティッギオーレを味わう
バッラロやカポといったパレルモの市場を歩いていると、なにやらもうもうと煙たなびく屋台に出くわすことがある。これがパレルモを代表するストリート・フード、スティッギオーレStigghioleの屋台だ。スティッギオーレとは子羊や子牛、時には子山羊の小腸をプレッツェーモロやネギなどに巻きつけてから炭火で焼き、レモンと塩を絞って食べる料理で、パレルモの肉屋の店先をのぞいてみると、焼くだけに成形された仕込み済みのスティッギオーレを売る光景もよく見られる。ステッギオーレは典型的なクチーナ・ポーヴェラの一種で、その語源は「腸」を意味するラテン語”extilia”エクスティリアに由来し、ローマ人がシチリアを征服する以前のギリシャ統治時代から食べられていたといわれている。現在ではイタリアの農林水産省が指定するイタリア伝統食品(PAT)に認定されているほど由緒正しい食品なのだ。 スティッギオーレの中でも、スティッギオーレ・ヴィッダーネと呼ばれるものは小腸とともに肝臓や心臓も巻き込んだものでより味わい深く、またラグーサでは小腸のネギ巻きの煮込みトゥルチニウーナTurciniunaという料理も見られる。まもなく訪れる復活祭の時期になると、シチリアでは全土でさまざまな祝いの料理や菓子、パンが作られるが子羊のスティッギオーレも復活祭の時期には特によく食べられる。ギリシャ時代から食べられていた、と書いたが実は現在もギリシャにはココレッツィという全く同じ料理が現存しており、2005年に訪れたギリシャのザキントス島のレストランでは「羊の腸を焼いて食べるのはギリシャだけだ」と胸を張って言われたので「いや、シチリアにも同じ料理がありますよ」と答えて店主を当惑させてしまったことがある。ザキントス島はヴェネツィア共和国時代にはイタリア領でザンテ島と呼ばれており、こうした地中海世界の残滓的料理がイタリア周辺部に存在するのは想像するだけでも楽しいものだ。 さて、過日パレルモの屋台で見つけたスティッギオーレは子牛の腸をネギに巻きつけたもので、焼きたてを串から外して塩とレモンをかけ、三角形の紙包み「クオッポ」に入れて食べさせてくれたのだが、これが実に美味。狂牛病問題で一時期EUから禁止されていた、乳飲み子牛の小腸を使ったローマ料理「パイアータ」と全く一緒で、子羊の小腸の中には母羊の乳が凝固したたんぱく質の塊が詰まっていたのだ。これはまだ草を食べていない乳飲み子羊の小腸のみにみられる状態で、牛乳を噛み締めているかのような自然な甘さと芳香がある。きづけばひとつ、またひとつとあっという間に二串分食べ終えてしまった。もしパレルモの市場で煙たなびくを見かけたら、迷うことなく小銭を握りしめてスティッギオーレを味わってみたい。食の真実は路上にあり、というのはどこの世界でも金科玉条だが、ことパレルモに関してはその真実をよりリアルに理解できるはずだ。

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