アイ・カッシナーリとナスのポルペッティーネ
「トラットリア・アイ・カッシナーリ Trattoria Ai Cascinari」はノルマン宮殿の北約500mほどの位置にあり、パレルモ中心部からさほど遠くはないのだが、正直夜は歩いて行きたくない場所にある。旧市街と違ってまだ廃墟のような、戦後まだ手付かず状態の建築も多く街灯も暗く路地は迷路のように入り組んでいる。昼間ならともかく、夜はタクシーで乗り付けるのが無難だろう。しかし、それでも行きたくなる魅力がアイ・カッシナーリにはある。このトラットリアは、「Dolce! イタリアの地方菓子」にも登場する近所の名店「パスティッチェリア・カッペッロ」のサルヴァトーレ・カッペッロに連れてきてもらって以来時折訪れるが、料理はもちろんのことなによりもてきぱきとしたサービスがよい。サービスのピエロと厨房のヴィート、二人のリッコボーノ兄弟がオーナーだが、やはりオーナーが店頭に立つ店は緊張感があり、その小気味良さは「ピッコロ・ナポリ」「パラディーゾ」に通じるものがある。近年では「Osterie d’Italia」常連店なのでガイドブックを見て行ったことがある人もいるかもしれない。

Panelle,Clocche, Sfincione

注文を終えるとまず登場するのが揚げたての前菜。ヒヨコ豆を揚げたパネッレとジャガイモを揚げたクロッケ。そしてトマト、アンチョビ、パン粉、チーズが乗った一口サイズのスフィンチョーネだ。これを食べながら注文した前菜を待つ。

Polpettine di melanzane

前述の「Osterie d’Italia」でも紹介されているが、名物はナスを使った一口サイズのポルペティーネだ。ナス、パン、おそらくはコリント種の干しぶどう、松の実で作った生地を揚げ、トマトソースで軽く煮込んであるのだが、ポルペッティーネはもちろんのことトマトソースが実に美味しい。フレッシュトマトを煮込んで裏ごししたソースは酸味と甘みのバランスがよく、エストラット・ディ・ポモドーロのような濃厚な味付けとは対極にある軽さ。

Carciofo attuppato al salsa di pomodoro

ピエロがひとつだけ味見してみろというので「パレルモ風アーティチョーク」。これはパン、チーズなどの詰め物をしてから蒸し煮にしたアーティチョークを同じトマトソースであっさりと煮込んだもの。

Bucatini con sarde

前日に「マエストロ・デル・ブロード」で濃厚エストラット・ディ・ポモドーロ入りイワシのパスタを食べていたので「トマト入りか?」と聞くとパオロは「ほんの少々、色付け程度のマッキアートだ」という。マッキアートとはコーヒー同様「シミをつけた」という意味で色付け程度にトマトを使うことをいう。ナポリで注文するスパゲッティ・アッレ・ヴォンゴレが「マッキアート」というのと同じ感覚だ。果たして登場したイワシのブカティーニはトマト少々なのでよりフィノッキエットの香りが堪能でき、やわらかめのブカティーニと一体感があってとてもよかった。イワシのパスタに関しては、イワシやフィノッキエットなど素材を味わうにはトマトはこれぐらいのほうがいいと思う。

Cannelloni alla Norma

ナスを使ったノルマ風のカネロニは、中にリコッタを仕込んだカネロニと、ナス、トマトソース、リコッタサラータを重ね焼きした重厚なもの。このトマトはポルペッティーネ、カルチョーフィの時に登場したパッサートのトマトソースではなく酸味を味わうフレッシュなトマトだった。ベシャメルではなくリコッタなのがシチリア風か。

Falsomagro

シチリアを代表する肉料理のファルソマグロは、子牛のひき肉とチーズをミートローフ状にオーブン焼き、あるいは蒸し焼きしたものが多いがここのファルソマグロは薄く叩いて伸ばした子牛肉を、何重にもゆで卵に巻いて筒状にしたミルフィーユ状のファルソマグロ。ひき肉よりも肉を食べている感じが強く、万能トマトソースがここでも威力を発揮。

Involtini di carne

インヴォルティーニとは魚や肉で中身を包んで串刺しにし、オーブン焼き、あるいは揚げた料理だがこれはパン粉、松の実、干しぶどうを子牛の薄切り肉で巻いたもの。間に挟んだローリエとタマネギの香りが効いていた。肉料理でも魚料理でもパレルモ風、Alla Palermitanaというと大抵はパン粉をつけて揚げ焼きした料理が多い。

Setteveli

「セッテヴェーリ」七つのベール、という名前のドルチェは前述のサルヴァトーレ・カッペッロのスペシャリティで、チョコレート、ヘーゼルナッツクリーム、スポンジ、プラリネなどを七つの層にしたもの。本当は1997年リヨンで行われたクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリーでイタリア代表チームが優勝した際に考案し、一躍有名になったもので、当時チームの一員だったプラートのルカ・マンノーリが考案者、だともいわれている。トラットリアで提供する買い置きゆえに残念ながらコンディションはいまひとつ。「セッテヴェーリ」本来の味を楽しむには近所にある「パスティッチェリア・カッペッロ」で直接味わってみることをお勧めしたい。
Trattoria Ai Cascinari
Via D’Ossuna, 43 Palermo
Tel+39-091-6519804
 

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