ソットリーヴァとパスティッサーダの伝説
「オステリア」とは本来量り売りのワインが飲め、簡単なつまみもある居酒屋のこと。しかし最近ではワイン&チーズに凝ったスローフード系オステリアから、モダン・ビストロのようなオステリア、さらにはクリエイティヴ系リストランテまで幅広くオステリアと名乗っているのでその意味はかなり曖昧。「オステリア」という字面だけで「居酒屋」と判断するのは少々危険なのだが、ことヴェローナにあってはオステリア=正統派居酒屋だ。もともとヴェローナは周辺部に名醸ワインの産地があり、毎年4月に行われるVinitalyも今年で53回目を迎えた。ヴェローナはイタリアにおけるワインの聖地のひとつ、ともいえるだろう。とある地元ヴェローナのブロガーが選んだ4大オステリアとかこんなラインナップだった。Osteria Ai Osei, Osteria Al Duca, Osteria Da UgoそしてOsteria Sottoriva オステリア・ソットリーヴァだ。 「オステリア・ソットリーヴァ」は市内中心部からやや外れたソットリーヴァ通りにある。ソットリーヴァとは「河岸の下」という意味で、文字通り目の前はアディジェ川が流れている。このソットリーヴァ通りは古い木製のポルティコがずっと続いていてなんとも雰囲気あるガード下の様相をしめしている。中でも最も古そうな、13世紀に作られたパラッツォの一階にあるのが「オステリア・ソットリーヴァ」だ。この店ではヴェローナ伝統料理が食べられるのだが、特に馬肉料理がメニューにはある。席に着くとまず登場するのがヴェネツィアなどのオステリア、バーカロの定番チケーティである揚げミートボール、ポルペッティ。これをつまみながらメニューを見る。 自家製のラザーニャとナイフで細かく切った牛肉のタルタル、トリッパ、そして馬肉料理「パスティッサーダ」を頼む。パスティッサーダとは非常に古い料理でその起源はなんと5世紀にまで遡るという。時は489年9月30日、東ゴート族の王テオドリコがヴェローナ郊外で行われた激しい合戦に勝利した後戦場には何千頭もの馬の屍体が横たわっていた。兵士たちは例え屍体とはいえ食材を無駄にしないよう馬を細かく刻んでから赤ワインとスパイスでマリネし、保存。その後適度な分だけ取り出しては煮て食べた。これが究極の戦場料理、パスティッサーダの始まりだ。パスティッサーダとはヴェローナの言葉で「ブラザート Brasato」つまり赤ワイン煮込みのことで、現代ではポレンタとともに食べるのが正当とされ、あわせるワインはアマローネかヴァルポリチェッラ・スーペリオーレ。「オステリア・ソットリーヴァ」で食べたパスティッサーダは脂身がほとんどない馬肉を繊維がほぐれるほど長時間煮込んだものだった。濃いめの味付けが確かに薄味のポレンタとよくあう。 同じく馬肉を使ったヴェローナの料理に「スフィラッチ・ディ・カヴァッロ」があるがこれは塩漬けにした後軽く燻製した馬肉のサラミを繊維状になるまでほぐしたもので、レモン、オリーブオイルとともにサラダにトッピングして食べたり、クロスティーニにして食べたりする。馬肉はビタミンや鉄分が非常に豊富な栄養食なのだが、なぜヴェローナ周辺には馬肉食文化があるのか?というとゴート族同様、6世紀に北イタリアに侵入したロンゴバルド族もやはり馬肉食文化があったからで、彼らがこの地に持ち込んだという説が有力だ。ローマ帝国崩壊後、ルネサンスの時代が来るまで戦いに明け暮れていた男たちはこうした馬肉を食べてリキをつけていたのか、と想像しながらガード下のオステリアで食べるパスティッサーダは、また格別だ。

SAPORITAをもっと見る

購読すると最新の投稿がメールで送信されます。