三代にわたって急成長を遂げ、今や先進のプロセッコメーカー「サントメ」
始まりは1971年、葡萄の小作農家アントニーノ・スピナッツェが4haの自らの畑を購入。収穫した葡萄はヴァルドッビアデネの組合ワイナリーに提供した。そして80年、息子のアルマンドが新たに28haを購入。スピナッツェ家はヴァルドッビアデネで最大の葡萄供給量を誇る農家となった。さらに95年、孫のアランがコネッリアーノの醸造学校を卒業したことを契機に、一家は自らワイン製造を手がけることを決意。99年に30haを購入し、その地ロンカーデに「Tenuta Santomè」を設立、醸造所、さらには直営ショップ、試飲スペース、カンファレンスルーム(外部利用も可能)、宿泊施設を伴うワインリゾートまで次々と作り上げていった。土地もさらに取得し、現在DOCGコネッリアーノ・ヴァルドッビアデネ地区、DOCトレヴィーゾ地区合わせて4ヶ所トータル75haを所有するまでになっている。 50年近くで急成長を遂げたわけだが、それは単なる規模拡大ではない。スピナッツェ家にとって、より優れたプロセッコ及びそのほかのワインを造るためにより良い畑を求めたに過ぎない。4ヶ所の畑はそれぞれ異なるテロワールを持ち、そこで育つ葡萄も同じグレーラ種といえど異なる性質を持つようになる。また、さらにそれぞれの土地を性質ごとに非常に細かく区分けし、グレーラ種の他に、ピノ・グリージョ、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、トカイ、リースリング、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルロー、ラボーゾなど土地特性に応じた多彩な品種を育てている。 さらに、ワインそのものの質の向上を目指すと同じくらい力を入れてきたのは、サステナビリティの向上だ。今や最先端の企業にとって利益追及と両輪をなす側面だが、「サントメ」はその点においても先進的なプロセッコ・メーカーの一つ。環境への影響を最小限に留めるため、水の使用量を抑える設備の設置、ソーラーパネルによる電力自給(70%達成と同時にCO2排出量の削減)、化学物質使用量の低減、SO2使用量の低減、さらに従業員の作業環境の改善などに努めており、2018年には環境保護を目的とするSQNPI(Sistema di Qualità Nazionale Produzione Integrata国が定める統合生産システム)の認定も受けている。 「サントメ」の革新性は、その名前にも込められている。99年に購入したロンカーデの土地は、以前の所有者によると「サントメ」と呼ばれていたと言う。「サントメ、すなわち聖トマソは、好奇心が強く、なんでも自分の目で確かめないと気が済まない気質だった」と神父でもあるその前所有者の言葉を聞き、スピナッツェ家は「サントメ」をワイナリーの名前に決めた。聖トマソは好奇心の強さから、新しいものに対して積極的で、眼に映る全てを測る人物とされ、三角定規がそのシンボルとなっている。この聖人の精神をワイン作りの柱とし、アイコンにも三角定規を手で表している聖人の像を採用したのだ。 さて、肝心のプロセッコだが、75haのうち27haでプロセッコ用の葡萄を栽培している。DOCトレヴィーゾはブリュットとエクストラ・ドライ。ブリュットは残糖度7.50g/L、プロセッコらしい青リンゴの香りと白い花を思わせる香り、すっきりとした酸味でクリーンな余韻が残る。食事を邪魔しないどころか、食欲をリセットしてくれそうなプロセッコだ。エクストラ・ドライは残糖度15g/L、青リンゴの香りがよりはっきりと立ち上り、アカシアの甘い花の香りも強い。しかし、まろやかな中にも酸がしっかりと感じられ、飲み疲れない。食前酒として楽しみながら、そのまま食事に流れても良さそうである。 今回はついでにラボーゾ種のスプマンテとスティルも試飲。酸が強いことから飲みにくい品種として知られる伝統品種ラボーゾは、高い酸度のおかげで傷みにくいため、船旅用ワインとしてヴェネツィア共和国御用達だった。昨今はこのラボーゾで作る濃厚なプラムやマラスカチェリーを感じさせるワインが色々と出ている。スプマンテの「サンリチャード“クオル・ディ・ラボーゾ”」は飲んですぐに強い甘味がやってくるが、タンニンと酸のおかげでそれはさっさと洗い流される。ただ余韻として微かな甘味がしばらく続くのが特徴だ。試飲をナビゲートしてくれた販売責任者のウイリアム・スピナッツェによれば、アラビアータのパスタとの相性がとんでもなく良いと言う。スティルの「ラボーゾ・パーセル#912DOCピアーヴェ」は一部に陰干しのラボーゾを使っており、栗とオークの樽で36ヶ月、瓶内熟成に2年を費やしている。先の濃厚なフルーツの他にリコリスやナツメグ、鞣し革の香りと、滑らかだがしっかりとしたタンニンが特徴で、チーズやドルチェにもよく合うと言う。華やかで軽快なプロセッコとは異世界だが、「サントメ」のワインに対する貪欲なチャレンジ精神を垣間見ることができたのは僥倖であった。

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