ヴェネト発祥の高級野菜、ラディッキオ・ロッソ・ディ・トレヴィーゾ
冬の訪れとともに登場する、目にも鮮やかな赤紫色のラディッキオ・ロッソ。ラディッキオ・トレヴィジャーノとも呼ばれるが、正式名称は、ラディッキオ・ロッソ・ディ・トレヴィーゾで、そのうち、ずんぐりとした楕円形のものがプレコーチェ(早生)、細い葉を持ち、その先がくるりと内側に丸まったものがタルディーヴォ(おくて)と呼ばれ、特に高級とされるのがタルディーヴォである。この二つともう一つ、斑入りのキャベツのようなヴァリエガート・ディ・カステルフランコを含めた三つは、産地名を冠したIGP農産物だ。生産地域はトレヴィーゾ県、ヴェネツィア県、パドヴァ県にわたり、その中心となるのはトレヴィーゾ市、保護協会もトレヴィーゾ市郊外のクイント・ディ・トレヴィーゾにある。そのクイントでタルディーヴォとヴァリエガートを手がけるIl Fiore della Saluteを訪れた。 高低のまったくない平野の道を行くと、ところどころ、緑の葉野菜の畑が見える。いわゆるラディッキオ・ヴェルデの状態だが、これが皆、あの赤紫色のラディッキオ・ロッソの畑だという。Il Fiore della Saluteの加工場は看板もない細道を入った先に現れた。無機質な工場のような建物が二つ並んでいる。そのうちの一つの中は一面の水槽、そこに緑の葉のラディッキオがぎっしりと並んで浸かっている。畑で育てられたラディッキオは、霜が降りる頃になると根ごと掘り出され、プラスチックカゴに詰められて件の水槽に15日間放置される。この15日の間にラディッキオの内側では次々に新芽が出てくるが、暗い屋内で光合成することがないため、内側の新しい葉は全て赤紫色なのだ。 ラディッキオ・ロッソの生産には水が深く関わっている。特にトレヴィーゾを流れるシーレ川流域に生産地が広がっているのはその理由による。ドロミテ渓谷に発する湧水は川となって地表を流れるものもあるが、地下を流れる分も多い。Il Fiore della Saluteが使っているのは地下200mから汲みあげた水で、温度は13度。この冷たすぎない水によってラディッキオは土から離されてもさらに成長を続け、赤紫色の新芽が育つのである。また、この水は非常にミネラルに富み、80〜85%が水分であるタルディーヴォはそのミネラルをたっぷり吸収している。栄養価が高く、また味わいもミネラル由来の旨味が強い。つまり、色も味も、全て水のおかげなのだ。ちなみに、プレコーチェも同じ土地で作るが、水に浸けることはなく、畑にある状態で緑の葉の上部を輪ゴムで縛り、その中で赤紫色の葉を育てる。 緑の葉の内側で十分に育った赤紫色のタルディーヴォは、水から引き上げられ、緑の葉を取り除いた後に、もう一つの建物の中で最終加工を施される。加工といっても、根を切り落とし、洗うだけだ。この時もふんだんに件の地下水を使う。この水に浸かっている限り、タルディーヴォは元気そのもの、まだまだ成長可能だ。しかし、日に当たると緑になってしまうので、作業は素早く、大きさ、長さなどによって選別し、発泡スチロール箱に詰めて出荷する。出荷されたタルディーヴォはきちんと冷蔵保存すれば二週間は新鮮だという。ところで、タルディーヴォは種から栽培する野菜だが、この種の採取は、最終加工の段階から始まる。姿形の良いものは根を切り落とさずに選り分けておき、この根を再び土に植える。すると4月から5月にかけて花(紫色のそれは綺麗な花)が咲き、その後に種が採取できるのだ。 ラディッキオ・ロッソがどのようにして作られるようになったのか、その起源ははっきりしていない。ただ、16世紀の画家レオナルド・ダ・ポンテの「カナの婚礼」の中に描かれていることから、当時すでに存在していたことはわかっている。その後、時代とともに生産方法が次第に改良され、1900年頃にはほぼ現在の方法が確立したという。水から引き上げられたばかりのタルディーヴォを食べさせてもらったが、ほろ苦く、ミネラルの旨味に富み、水分たっぷりのパリっと心地よい食感で、トレヴィーゾの大地と農家の知恵と工夫が結晶した、類稀な美味野菜だと実感した。

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