広島よりイタリア料理の夕べ アル・マンドリーノ
広島市中心部、原爆ドームからも歩いて5分ほどの距離に広島最古のイタリア料理店のひとつ「アル・マンドリーノ Al Mandolino」がある。創業は1978年、その間何度か店名は変わったが常にこの場所には広島市民に馴染み深いイタリア料理店があった。昨年創業40周年を機会に店舗リニューアルとメニュー刷新に取り組み、若き村上裕哉シェフは今年の2月レッジョ・エミリアの1つ星「カ・マティルデ Ca’ Matilde」で研修にのぞんだ。その後モデナ、パルマ、ボローニャ、ヴェネツィア、ウディネ、フィレンツェ、ローマ、ナポリ、パレルモとともにイタリア各地を旅し、各地の味を体に染み込ませて日本に帰国。3月のリニューアルオープンとともに郷土料理色を前面に打ち出した新メニューを始めたのである。今回の帰国にあたり「アル・マンドリーノ」で30名限定の特別ディナー「イタリア料理の夕べ」を開催することになり、共に旅した冬のイタリアからヒントを得た郷土料理の数々でメニューを構成。旅の記憶を再現、披露する貴重な機会となった。事前に今回のメニューをメールで受け取った際、説明はなくともどこの街、どこの店からインスピレーションを得たのかが手に取るようにわかり、我がことながら嬉しくなったのだ。 まずは「クラテッロ・ディ・ズィベッロ」これはパルマ近郊で自らクラテッロを生産するリストランテ「アル・ヴェデル」の記憶を再現したものだ。16ケ月、24ケ月、36ケ月という熟成期間の異なるクラテッロを味わい、熟成庫を訪ねた。今回登場したのはおそらく24ケ月熟成かと思われるがその優美な芳香は彼の地の記憶を思い起こさせるものだった。続く前菜は「ヴェネツィア前菜3種盛り」はバッカラ・マンテカート、サルデ・イン・サオール、タコとナスのピューレ。これも「カンティーナ・ド・モーリ」「バンコジーロ」「ディアヴォロ・エ・アックアサンタ」といったヴェネツィアのバーカロ巡りをした時によく食べたチケーティだ。バッカラ・マンテカートは塩抜きも正確、とても滑らかだった。 パスタは「キタッラ トリュフ香るソース」これはイタリア滞在中には食べていないが、プロシュットの聖地ランギラーノの朝市でキタッラを見かけた際にすぐさま購入。大事に日本に持ち帰ったあとに再現したパスタだ。イメージは中部イタリア、マルケかアブルッツォ。口直しにシチリア風レモンとミントのグラニータを挟んだ後、魚料理にこれまたシチリアを思い出させる「マグロとヒヨコ豆のバリエーション」が登場した。マグロは外だけ火を入れ中はレアのタリアータ状態。ヒヨコ豆はオーソドックスに茹でたもの、粉を揚げたパネッレ、そしてピューレと3種類。ソースもパレルモの「アイ・カッシナーリ」を思わせ、完成度が高かった。肉料理は「ボッリート・ミスト 自家製モスタルダ」これもモデナで食べた冬のボッリートからインスピレーションを得たと思われるもの。ミストというにはできればもう数種類、ポーションは少なめでもいいから欲しかった。自家製モスタルダももう何度か試行錯誤を重ねて完成形に近づけてほしい。最後のドルチェは「ズッパ・イングレーゼ」これはボローニャの「オステリア・ボッテガ」で食べ、その歴史について話したのが懐かしい。これも上品で完成度が高かった。 こうしてともにイタリアを旅し、時間を共有した思い出はとても貴重なもので、ある種の絆に似た感覚はイタリア料理というキーワードを通じて今後も継続して行くことと思う。そうした仲間の元を訪ね、日本の地方を旅するのはこの上ない喜びでもある。弘前、福岡、和歌山、愛媛、福島、静岡、仙台とあちこちにイタリア料理を愛する仲間はいるが、今後広島にもイタリア料理愛が根付き、少しづつでもいいからイタリア料理愛好家が増えていってくれることを心から願う。
アル・マンドリーノ Al Mandolino
https://almandolino.owst.jp/
広島県広島市中区大手町2丁目8-4 パークサイドビルB1F
Tel082-504-0435
月~土、祝日、祝前日: 11:30~15:00 日休

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