リントローチロとカサールタウレロ
アブルッツォ・ワインの名醸地コッリ・キエティーニにある「マッサリア・ディ・サルキアッポーネ Massaria di Sarchiappone」はサルキアッポーネ家がはじめたアグリトゥーリズモだ。アントニオ・サルキアッポーネ Antonio Sarchiapponeは1890年ブラジルに移民。その仕送りを貯めた家族は30haの土地を購入し、自分たちの畑で農業を始める。1900年代初頭のことであり、それが現在の「マッサリア・ディ・サルキアッポーネ 」だ。現在オーナーはダレッサンドロD’Alessandro家に変わったものの、創業者に敬意を表し「サルキアッポーネ」の名はそのまま屋号に残されている。厨房を預かるのはマリア Maria、20世紀初頭の祖母フィロメーナ Filomenaが作っていた料理を忠実に再現しており、「サルキアッポーネ」では徹頭徹尾、季節の素材に合わせた農家の食卓、伝統的アブルッツォ郷土料理を堪能することができるのだ。 この夜はワイナリー「カサールタウレロ Casal Thaurelo」が主催するワイナリー・ディナーで輸出担当のドナート・ナスーティ Donato Nasuti氏がオーガナイザー。まず自家製の生ハム、サラミ、ペコリーノをつまみながらドゥカ・タウレーロ・ペコリーノを飲む、花、バルサミコ、ライチやスターフルーツなどのエキゾチック・フルーツのニュアンスを持つしっかりとしたドライな白。さくさくのボリジのフリット、ブロッコレッティのソテーといったほろ苦い野菜料理とよくあう。素晴らしかったのは卵とチーズで作る家庭料理「カーチョ・エ・ウオーヴァ」だ。濃厚なトマトソースによく絡み、最初はパン粉とひき肉で作ったポルペッティかと思ったが、肉は一切使っていないという。安価な素材を美味しく食べさせる農家の知恵だ。 パスタはリントローチロ Rintrociloという手打ちパスタで、基本的には卵を入れない00と水だが、卵白を入れるレシピも存在する。3mm程度のやや厚めの生地を正方形に切るところから形状的にはストランゴッツィやキタッラによく似ている。食感はピーチ、日本では「リントロチーロ」と表記されている場合が多いが、これは現地での発音を聞いていないからだと思われる。実際にアブルッツォでは「リントローチロ」と発音しているのだ。羊のラグー、ペコリーノがこの骨太のパスタにとてもよくあう。ここでワインはVini d’Abruzzo DOC 50周年を記念した限定生産のモンテプルチアーノ・ダブルッツォ・リセルヴァ Montepulciano d’Abruzzo Riservaになる。重厚で熱くカシス、完熟ブラックベリー、リコリスの香りで骨格はしっかり、でも飲み心地が非常に良い赤だ。 ちなみに「マッサリア・ディ・サルキアッポーネ」には「オープンエア・ミュージアム Il museo all’aperto」という歴史施設が保存されており、訪問者は誰でも見学することができる。これは1943年12月4日から26日にかけて連合軍(カナダ軍)とドイツ軍が戦った「オルトーナの戦い」を記念したもの。「マッサリア・ディ・サルキアッポーネ」はドイツ軍が設定した防衛戦グスタフ・ラインの最前線にあり、6ケ月に渡りドイツ軍が司令部として接収していた。この戦争にまつわる話はチャボリッチでも聞いたが、「マッサリア・ディ・サルキアッポーネ」でもその間人々は地下に暮らすことを余儀なくされており、アブルッツォの負の歴史の一部として今も保存されているのだ。2019年のクリスマスを迎えようとしている今、1943年のクリスマスとともに戦争から解放されたアブルッツォの人々の喜びやいかに、と彼の地に思いを馳せる。 マッサリア・ディ・サルキアッポーネ Masseria di Sarchiappone www.sarchiappone.com カサル・タウレーロ Casal Thaurelo www.casalthaulero.i    

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