驚きのなめらかさ。ヴェネトから届いたジェラート・アルティジャナーレ「ミキエラン」
ジェラートには大きく分けて、二つのカテゴリーがある。一つは“手作り”とも表現される少量生産のアルティジャナーレ、もう一つは大量生産のインダストリアーレだ。イタリアのジェラート市場は、55%をアルティジャナーレが占めていると言われる。人口当たりのジェラテリア軒数が日本におけるラーメン店並みに多いイタリアならではの数字である。 では、アルティジャナーレとインダストリアーレの違いは? 幾つかあるが、最も大きな相違点は原材料だ。牛乳、砂糖、卵、果物、ナッツ、チョコレートといった素材を吟味し、新鮮で上質なものを使う。当たり前のように思われるが、インダストリアーレでは、牛乳は粉末加工されたもの、果物は濃縮ペースト、さらに合成香料、着色料、乳化剤、安定剤などを使用する。その理由は、安く大量に製造し、多少の温度変化に耐えられるようにも調整して、何ヶ月も場合によっては何年も先に消費されることを見越しているからだ。そしてもう一つの大きな違いは、ジェラート中の空気含有量、いわゆるオーバーランが、アルティジャナーレのものは30〜50%が平均であるのに対し、インダストリアーレは、65%以上、場合によっては100%以上たっぷり空気を含ませる、つまり膨らませる点にある。空気は少なすぎてもなめらかさが失われ、多すぎると不自然にもったりとした食感になる。フルーツ、乳製品、ナッツ、チョコレートといったその時々に使用する素材の特性に応じてオーバーランを微調整するのがアルティジャナーレの本領といってもいい。 そんな職人技のジェラートを、世界中に広めたのは、ヴェネト州ベッルーノのジェラタイオだと言われている。19世紀にアルティジャナーレの規範に則りつつ、イタリア国内はおろか外国にも輸出をしたのが彼の地のジェラートメーカーだ。そして、このベッルーノで技術を学び、世界中にジェラート・アルティジャナーレを送り出しているのが、ミキエラン兄弟が1982年に創業したヴェネト州ヴェネツィア県の「ミキエランPremiata Gelateria F.lli Michielan」社である。 当初は小さなジェラテリアだったが、次第に規模を拡大し、1992年にはドイツをはじめ、国外各地に輸出を開始。現在は23カ国に輸出するまでに成長した。しかし、手がけているのはあくまでもジェラート・アルティジャナーレである。先述の通り、素材を吟味し、素材を生かすためにオーバーランを調整することはもちろんだが、殺菌は80℃で15秒と短時間で効果的に素材の風味を守り、そして素材を混ぜ合わせた後は4〜5度の低温で12〜16時間休ませることで“熟成”させる。こうして完成したジェラートは−20度で18ヶ月保存が可能で、食べるときは冷凍庫から出して10分もおけば適温の−14度となる。スプーンを挿せば、軽い手ごたえを感じ、食べると実になめらかなテクスチャーで、イタリア語で表現するところの“ベルベットのよう”な心地よさが波のように寄せ、引いていく。 今回、試食したのは、シチリア産レモンを使った「レモン」、インド産マンゴーの「マンゴー」、エミリア・ロマーニャのファッブリ社のシロップ漬けサクランボを使った「アマレーナ」、そしてIGP(地理表示保護)のピエモンテ産ヘーゼルナッツをたっぷり使った「ヘーゼルナッツ」の4種。それぞれの持ち味を生かすためにテクスチャーは微妙に異なり、たとえばレモンは決してソルベットではなくクリームのような感じを残し、ヘーゼルナッツは全く重くなく、ローストヘーゼルナッツを食べた時のような軽さが残るのみ。昔、ジェラート職人を取材した時に言われた「良いジェラートは食べた後に絶対に喉が乾かない」という話を思い出したが、確かに4種類を、それも少なくない量を食べた後も、水が欲しいとは全く思わなかった。 さて、この「ミキエラン」のジェラート、どこで食べられるのかといえば、現在のところ、日本では一般小売をしておらず、レストラン卸のみだという。「近い将来、70gのミニポーションも販売したいと考えている」とミキエラン日本代理のマルコ・カルニアート氏。イタリア直送のジェラート・アルティジャナーレが冷凍庫に常備できる日が待ち遠しい。 問い合わせ先 ジャパンソルト株式会社    

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