エトナ山の新進ワイナリー「エトナ・ノルド Etna Nord」
標高3326mのエトナ山をぐるりと半周するエトナ山周遊鉄道 Circumetneaを体験したことがある人はいるだろうか?シチリア東海岸に面したエトナ山への玄関口、ジャッレ・リポスト Giarre – Ripostoを出発するとやがてディーゼル車両は黒い煙を吐きながら徐々に標高を上げてゆく。途中通過するのはピエディモンテ・エトネオ Piedimonte Etneo、リングアグロッサ Linguaglossa、ソリッキアータSolicchiata、パッソピシャーロ Passopisciaro、そしてエトナ山西部への折り返し地点であるランダッツォ Randazzo。そこに至るまでに車窓から見える風景はまるで月面のごとく、冷えた溶岩からできた溶岩地帯や真っ黒い砂に覆われた無数の噴火口=クレーターがおりなす寂寥感といったら思わず口を開けて見とれてしまうほど。20年ほど前ならば、途中駅のこうした地名に興味を示す人はほとんどいなかっただろうが、現在はエトナ山北斜面に位置するワインの名醸地。中でもソリッキアータとパッソピシャーロの中間に位置しているカスティリオーネ・ディ・シチリア Castiglione di Siciliaにはとりわけ多くのワイナリーが集まっている。「エトナ・ノルド Etna Nord」はそのカスティリオーネ・ディ・シチリアの意欲的な生産者たちが集まり、エトナ発のプレミアム・ワイン作りを目指して結成した若いワイナリーだ。 先日、主要メンバーのひとりであるダヴィデ・ディ・ベッラ Davide di BellaとZoomテイスティングした時のこと、ダヴィデはそのシチリア愛をたっぷりと語ってくれたのだ。ダヴィデ曰く、エトナ山には噴火でできたクレーターが大小合わせて実に400以上あり、それぞれ火山岩と火山灰の比率や地形が異なる非常に複雑な土壌を形成している。最高地点の標高は3326mとイタリアの活火山の中でもずば抜けて高いことから高地は冷涼な気候でシチリアのアルプスとも呼ばれ、昼は暑いけれども夜は激しく冷え込み、1日の気温差は30度を超えることもある。温暖な地熱を利用してオレンジをはじめとした柑橘類の大規模栽培が行われている南斜面とは違って北斜面は降雨量も多いのだが、山から海へ常に吹く風がブドウを病気とは無縁の健康な状態に保ってくれている。中でもカスティリオーネ・ディ・シチリアはワイン生産者が多く集まる、エトナ山北斜面でもっとも恵まれた土地なのだ。 ダヴィデが主要する5haの畑「テヌータ・アンティカ・カヴァッレリア Tenuta Antica Cavalleria」はカスティリオーネ・ディ・シチリアのコントラーダ(地区)カヴァレッリアとピエトラマリーナにまたがる標高600mの場所にある。カスティリオーネ・ディ・シチリアは多くのコントラーダから構成されるが、それぞれ地形も土壌も異なるコントラーダはミクロクリマを形成し、ワインをより複雑かつ個性的でエレガントなものに仕立ててくれる。エトナ山の代表的な品種は黒ぶどうがネレッロ・マスカレーゼ Nerello Mascarese、白ぶどうがカッリカンテ Carricanteだがダヴィデが作るネレッロ・マスカレーゼはネッビオーロやピノ・ネロのようなニュアンスがある。事実ダヴィデが目標とするのはブルゴーニュやランゲなのだ。Etna Rosso DOC “DAM”はそうしたダヴィデの指向性を最も色濃く反映したワイン。華やかで果実味あるネレッロ・マスカレーゼにネレッロ・カプッチョが力強さを加え、非常にバランスよい仕上がり。ステンレスタンクで発酵させたあとフランス製トノーで15ケ月熟成させ、ダークチェリー、ブラックベリー、リコリス、バニラのようなニュアンス。あわせるならネブロディの黒豚で作るサルシッチャのグリルは理想的かと。 一方ネレッロ・マスカレーゼとネレッロ・カプッチョで作るロゼワインEtna Rosato DOC “DAME”は美しい桜色でほろ苦い後口、食中酒に最適。白い花、特にマーガレットや北方系のエーデルフラワーのような香りで、味わいは洋梨、若いチェリー、ピンク色のリンゴ。 共同経営者の一人、ジュゼッペ・プラタニアがサンタ・ドメニカ地区で栽培するのはカッリカンテとカタラット。Etna Bianco DOC “BIZANTINO”は麦わら色のしっかりとした白ワインで、バリックで2〜3ケ月熟成させて仕上げる。アロマティックのような芳香でバナナやパイナップル、マンゴーなどのトロピカルフルーツを感じる一方でレモンのようなシャープな酸もあり、ジネストラのような黄色い花の印象も感じる。シチリアらしいしっかりとした白はイワシのブカティーニやカジキのインヴォルティーニとあわせればそれはそれは素晴らしいはず。 コントラーダ・マルケーザにある畑、パパ・マリアで作られるのはEtna Rosso DOC “Marchesa”とEtna Bianco DOC “Cuore di Marchesa”。前者はトノーで20日マセラシオンのあと、素焼きのアンフォラで18ケ月熟成させて作る長熟タイプの赤。濃いルビー色でチェリーのジャム、ブラックベリー、ザクロといった香りでタンニンも滑らか。濃厚なズッパ・ディ・ペッシェや羊の煮込みとあわせるのがベストか。一方後者は10月下旬に収穫した樹齢60年のカッリカンテを使用。少量生産の限定ワインでおだやかな酸は魚介類の前菜や冷たく冷やしたカポナータにあわせたい。 いまはまだシチリアを旅することには多大な困難が伴うが、コロナが開けたら真っ先に旅したいのがシチリア、それもエトナ山麓だ。その土地の料理とワインを味わうフード・エクスペリエンスはイタリアにおけるツーリズムの根幹をなす重要なエレメントだが、中でもエトナ山という非常に個性的なテロワールを理解するには現地を訪れるよりも最適な方法はない。「エトナ・ノルド」はプール付きのアグリツーリズモ「テヌータ・アンティカ・カヴァレリア」も所有しているのでワインとシチリア料理を堪能したらエトナ山の夜景を眺めつつ眠りにつく、そんなステイも可能だ。しかし果たしてあとどのぐらい待てば自由にシチリアを旅することができるのか。今年の夏のバカンスこそは、といまから期待に胸を膨らませ、美食の王国シチリアへて思いを飛ばしているイタリア人は、きっと多いことかと想像する。 http://www.produttorietnanord.it/SAPORITAをもっと見る
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