レポート:ガンベロ・ロッソ トレ・ビッキエーリ ワインセミナー試飲会@東京

毎年10月終わり頃に開催されていたガンベロ・ロッソ「ヴィーニ・ディタリア」のトレ・ビッキエーリ試飲会。昨年はパンデミックで中止となり、この春、ようやく着席式のワインセミナーとして実現した。現地から生産者が来ることは叶わないが、ビデオによる紹介と当ワインガイド編集長マルコ・サベリコ氏によるテイスティングレクチャー、ワインジャーナリストの宮嶋勲氏の通訳と解説に導かれて10種類のワインを試飲。1時間半があっという間に過ぎた濃密なセミナーであった。

セミナーは、同日に二回開催され、それぞれテイスティングするワインは全て異なる。インポートされているもの、されていないものが入り交ざった10種は、1.プロセッコ、2.フランチャコルタ、3.〜6.白、7〜9.赤、10.モスカートという布陣。参加した回で紹介されたワインの内訳は次の通り。

  1. Biancavigna社Conegliano Valdobbiadene Brut Biologico

ビアンカヴィーニャは、数年前に設立されたヴェネト州のワイナリー。コネリアーノ・ヴァルドッビアデネDOCG地区内各地に合計32haの畑を持ち、それぞれの畑の違いにこだわったプロセッコを造っている。

ブリュット・ビオロジコは、標高150m〜400mの畑で収穫されたグレーラ種100%。白い花を思わせるフローラルな香り、リンゴなど白い果肉のフルーツの香り、そして微かに柑橘の香り。味わいはクリーミーだが、プロセッコとしては酸がしっかりとしていて、繊細さの中に芯の強さのようなものを感じさせた。

 

  1. Barone Pizzini社Franciacorta Extra Brut Animante

ロンバルディア州フランチャコルタのバローネ・ピッツィーニは、イセオ湖にほど近い、いわゆるフランチャコルタの有名な造り手が集まる地域からは少し外れる。フランチャコルタ保護協会の会長をも務めるシルヴァーノ・ブレシャニーニのディレクションにより、フランチャコルタの中でもビオロジコに早くから取り組み、現在ではほとんどの畑がビオディナミコに移行している。また、カンティーナは徹底した“ビオ建築”で太陽光はもちろん、地熱、地中の冷気も活用し、環境的、社会的、経済的サステナビリティを追求している。
アニマンテは、同社にとってベースとなるワインで、シャルドネ84%、ピノ・ネーロ12%、ピノ・ビアンコ4%、瓶内二次発酵30ヶ月。香りは微かなバニラを感じさせエレガントで非常にクリーン。味わいは包み込むようなクリーミー、繊細な泡が優しく撫でるような印象を与え、同時にドライで柑橘の余韻が長い。宮嶋氏によるとフランチャコルタにしてはトロピカルな風味は少なく、シャープな感じ。

  1. Rosset Terroir社Sopraquota 900 2019

ヴァッレ・ダオスタ州のロセ・テロワールは2000年創設の若いワイナリーで、2004年がファーストヴィンテージ。ただ、それ以前から一族としてはワインを造っていたという。固有品種2種(フマン、コルナラン)、国際品種2種(シャルドネ、シラー)を植え、試行錯誤を繰り返してきた。作付け面積は7ha、モンブランの麓、山を背にした南向きの畑で葡萄を育てている。
ソプラクォータ900は文字どおり標高900m以上の畑を意味し、品種はスイスのヴァレー地方とヴァッレ・ダオスタで主に栽培されるプティ・ダルヴィン。テラコッタのアンフォラ、テラコッタのオルチョ(アンフォラより大型)、バリック新樽、ステンレスタンクを使って醸造した後、ブレンドを行なっている。香りは非常にエレガントで、白いフルーツ、山のハーブ、柑橘など、フレッシュな香りがたっぷり。また、セージ、バジリコ、微かなバニラも感じられ、とても複雑である。アルコールは14度と高く、しっかりとしたボディで、しかも酸が生き生きとして、ミネラルも感じられる。宮嶋氏によると、生産量が非常に少ないが、2〜3年前からトレ・ビッキエーリに評価されており、ベルモットを彷彿するハーブの香り(特にヨモギの香り)が感じられる興味深いワインである。

  1. Tenuta Luisa社Friuli Isonzo Friulano I Ferretti 2018

フリウリの平野部、イソンツォ川右岸に100haを所有するテヌータ・ルイザは、4世代にわたるワイナリーで、アルプスまで100km、アドリア海まで30km、山と海、両方の恩恵を受けたエレガントなワインを造っている。
イ・フェレッティ・フリウラーノはフリウラーノ種100%、アルコール13.5%。50%は完熟で、残りは過熟させて収穫しているため、豊かで凝縮した感じになる。香りは、熟した白いフルーツ(桃、アプリコット、洋梨)や、アロマティックハーブ(セージ)、そして、フローラルな香りなど、素晴らしくエレガント。味わいには、パイナップルやグレープフルーツが感じられ、フレッシュなハーブ香もあり、クリーミーで余韻が長い。宮嶋氏曰く、デリケートなフリウラーノで、ソーヴィニヨンブランほどの強さはなく、またコッリオ・フリウラーノに比べるとミネラルは強くないが、心地よい。サラミや生ハムにもよくあう。

  1. Montecappone社Castelli di Jesi Verdicchio Classico Utopia Riserva 2016

ジャンルカ・ミリッツィがオーナーを務めるマルケ州のモンテカッポーネは1960年代に設立された農園で、1997年にボンプレッツィ-ミリッツィ家が所有者となってから全面的に改良が行われた。
トレ・ビッキエーリの評価を得たユートピアは、豊かなアロマと長期熟成に耐えるワイン。まだまだこれからも熟成する可能性がある。若くても飲みやすく、長期熟成をさせても魅力的なのがヴェルディッキオの特徴。

香りは、繊細でエレガント、熟した白いフルーツの中に、セージや月桂樹、タイムといったハーブの香りが感じられる。さらに、柑橘(レモン、ライム、ベルガモット)、カモミールも。味わいはリッチであると同時にフレッシュで、果実味がしっかりとあり、そして後口に、塩っぽさを持ったミネラル感が残る。宮嶋氏によると、ヴェルディッキオは熟成させると非常にエレガントになる。ガストロノミックなワインで食事とよく合い、魚介料理のほか、鶏肉料理などとも相性が良いという。

  1. Cusumano社Etna Bianco Alta Mora 2019

クズマーノは、創業20年の若いワイナリーだが、シチリア各地に500haを所有する大手であり、また優れたワインを生産し続けることで知られる。2013年にエトナに進出、44haで年間200000本を生産。活火山エトナの周囲は「全てが緩やかに進む、他にはない土地」と言い、小さなコントラーダ(地区)がたくさんあり、それら全てが異なる土地特性を持つ。

標高700〜800というイタリア北部のような、ほとんどコンチネンタルな気候で、例えるなら地中海にあるアルプス。ピエモンテからやってくるエノロゴのマリオ・ロンコがエトナ入りするのは、ピエモンテの収穫後(10月15日ごろ)だという。

熟した白いフルーツ、桃、スモモ、アプリコット、そして微かに柿(シチリアでは柿がたくさん栽培されている)の香り、そこに山のハーブの香りが加わる。味わいは深みがあり、しっかりとした火山性のミネラルが感じられ、また酸も生き生きとして複雑さを増す。2019はまだ若いが、力があり、何年か経つとより繊細さが出てくるという。宮嶋氏によると、クズマーノはインターナショナルなワイン造りをするが、このエトナ・ビアンコは固有品種らしさを大切にしており、バランスが取れている。若い時から魅力を開示していて、今飲んでも十分楽しめるという。

  1. Poggio Le Volpi社Roma Rosso Edizione Limitata 2017

ラツィオ州カステッリ・ロマーニに140ha超の畑を持つワイナリー。プーリア州ターラント県にも同じく140haのワイナリーを所有しており、プリミティーヴォでトレ・ビッキエーリの評価を受けている。

カステッリ・ロマーニは白ワインの産地として知られるが、このワインは非常に現代的な赤ワイン。モンテプルチャーノ、チェザネーゼといった固有品種に少しだけシラーを加えている。香りは芳醇で、小さな赤い果実、スターアニスや白胡椒いったスパイスが感じられる。味わいは貴族的でエレガント。インターナショナルなスタイルだが、しっかりとテロワールも感じられ、余韻が長い。宮嶋氏曰く、骨太なローマ料理によく合う。モダンで飲みやすく、通好みというよりは広く好まれるタイプという。

  1. Grattamacco社 Bolgheri Rosso Superiore Grattamacco 2017

1977年、Tenuta San Guidoの次に誕生したトスカーナ州ボルゲリの有名ワイナリー。平坦な土地のボルゲリの中でも150mとやや標高が高い。地中海的気候だが、風があるので夏の暑さも少し和らぐ。カベルネ、メルローの他に、標高が高いところを好むサン・ジョヴェーゼも栽培しており、これがグラッタマッコにとっては非常に重要。1997年よりビオロジコを実践している。

基本はボルドースタイルだが、サン・ジョヴェーゼが独特の香りをもたらし、熟した赤い果実、マラスカチェリー、スパイス、バニラ、タバコ、ヒマラヤスギなどを感じさせ、マッキア・メディテラネア(地中海の灌木群)をも思わせる非常に豊かな複雑さを表現している。味わいは力強く、そしてバランスが非常に良い。余韻に赤い果実、バルサミック、スパイス、ミントのトーンが長く続き、タンニンがなめらかでエレガントである。宮嶋氏曰く、ボルドー的なサッシカイア、国際的なスタイルのオルネッライア、そして、トスカーナ的みずみずしいのがグラッタマッコ。サン・ジョヴェーゼだけでなく、カベルネも丘にあるということが影響しているという。

  1. Argiolas社Turriga 2016

サルデーニャのワインを世界レベルに引き上げたワイナリーとして知られ、作付け230ha、年間2,000,000本以上を生産する。中でもトップワインとして君臨するのがこのトゥリーガ。カンノナウ、カリニャーノ、ボヴァーレ・サルド、マルヴァジア・ネーラの固有品種を使い、古木、非常に抑えた収量、フレンチオークのバリック熟成と、聞いただけでグランデヴィーノと想像できる。

香りはマッキア・メディテラネア、そしてブラックベリー、マラスカチェリーなど非常に繊細でバルサミック。さらに、インク、ヒマラヤスギ、バニラといったアロマが追いかけてくる。味わいはフルーティで、サルデーニャのミルトも感じ、フィナーレにアロマティック・ハーブ、スパイス、バニラ、タバコ、チョコレートが追いかけてくる、実に印象的なワイン。宮嶋氏によると、サルデーニャ=南の島、濃いワインをイメージしてしまうが、トスカーナワインの補強に使われたというなめらかできめの細かいタンニンが特徴。サルデーニャにはアルコール度数が高くても繊細さを失わないワインもある。まだまだこれから発見されていく産地だという。

  1. Gianni Doglia社 Moscato d’Asti Casa di Bianca 2019

作付け15haの小さなピエモンテ州のワイナリーだが、素晴らしいモスカート・ダスティを造る。複雑で、涼しげな香りと温かみのある香りが共存し、15分ほど置いておくとグラスの中でゆっくりと開き、さまざまな感動をもたらしてくれる。残糖は130g、そのぶん、アルコール度数が5%と低い。デザートにはもちろん、また、牡蠣にも、パルマやサン・ダニエーレの生ハムとも相性が良いという。

泡立ちがとにかく繊細で、香りはトロピカル・フルーツ、セージ、マンダリンやゆず、オレンジ、グレープフルーツといった柑橘の皮の香りなど、非常にバルサミック。味わいは、残糖が酸と良いバランスを保ち、心地よく飲みやすい。フローラルでフルーティ、儚いまでに繊細だが、印象は鮮やか。宮嶋氏によると、温度が上がってもへたらない。温くなると甘くて飲めない工業的なものとは全く異なるモスカート・ダスティだという。

 

以上、試飲した10種は、若いワイナリーから大御所までが網羅されていて今のイタリアワインの多様性を垣間見ることができた。特に、ヴァッレ・ダオスタのソプラクォータ900や、ピエモンテのモスカート・ダスティ・カーサ・ディ・ビアンカには、自然の深みや健やかさを感じ、ストレスのないワインという印象を受けた。偉大なワインとひと言で言っても、実際にはそれこそ千差万別という、考えてみれば当たり前のことだが、それがイタリアワインの奥深さだとあらためて思い知る機会となった。2021年版は2,645生産者の24,638本が紹介され、うち467銘柄がトレ・ビッキエーリの評価を受けている。日本語版も準備中とのこと、しばしの待機である。