注目の新刊 児島麻理子著「おうちでつくれるかんたんスパイスカクテル」
アペリティーヴォにミクソロジー、アジア50バーにクラフトジンと最近カクテルに関する話題にはことかかない。そんなカクテルブームを反映してか、この度非常に興味あるレシピブック「おうちでつくれるかんたんスパイスカクテル」が出版されたので紹介したい。著者の児島麻理子さんは編集者やスピリッツのPRを経て独立、バー&カクテルに関する記事が多い酒のスペシャリストだ。雑誌編集者時代に知り合って以来はや15年以上の時が過ぎたが、最近では酒や料理関係のイベント、レストランなどあちこちでお会いすることも、クレジットでその名前を見かけることも多く、まさに光陰矢の如しという言葉を実感させてくれる人物なのだ。 本書は児島さんの豊富な酒体験をもとに、スパイスを使って自宅で楽しむカクテルタイムを提案している。レシピ提供は先日のアジア50バーでも日本最高位、第5位にランクインした「BenFiddich」鹿山博康さんはじめ「Bar Libre」清崎雄二郎さん、「The Society」南木浩史さん、「ザ・ペニンシュラ東京 Peterバー」ビバレッジマネージャー鎌田真理さんの4人。近年バーシーンやガストロノミーの世界において、スパイスやハーブが持つ存在感はますます顕著になっている。「香り」という記憶に直結するエレメントはある意味、味よりも深く記憶に刻み込まれるものなのだろう。 象徴的なのは第一章「アジアのスパイスカクテル」だ。これはかつてベトナムでもバーを展開していた清崎雄二郎さんの構成によるもので、カフィライムを使った「アジアンハイボール」、ガランガルを使った「チャイニーズモスコミュール」など、これから暑くある季節に飲みたくなる一杯ではないか。先日ドバイのモダン・インド料理レストラン「トレシンド」で、料理に合わせたスパイシー・カクテルをいくつか味合わせてもらったのだが、こうしたアジアのスパイスは日本人にとってまだまだ馴染みないものも多く、新鮮な味と香りはきっと深く長く脳裏に止まり続けるのではないだろうか。 続く第二章「中東・インドのスパイスカクテル」は鹿山博康さんの担当だ。麦焼酎とカルダモンの「ノーボーダー」、クミンシード、オレンジ、スコッチで作る「クミンオールドファッションド」、イラン革命以前のパフラヴィ王朝で飲まれていたというウォッカ一塩ヨーグルトドリンク「アブドゥーグ」にスポットライトをあて、サフランを加えてイランのクラシックカクテルを蘇らせた「サフランアブドゥーグ」などと聞けば、そそくさと荷物をまとめて中東への旅に出たくなる。 第三章は「ヨーロッパのスパイスカクテル」は南木浩史さんがレシピ考案。薬草酒好きだったと言われるピカソの逸話からイメージした「ピカソの迎え酒」はスーズ、カモミールティ、トニックウォーター、セロリシード、ジンジャーパウダー。これは確かに個性的な香りで、二日酔いの朝をシャキッとリセットしてくれそうだ。パスティス、カルピス、ミネラルウォーター、エルブドプロヴァンスを使った「プロヴァンスの風」は暑い夕暮れ時にのみたくなる一杯。 最後の第四章は「モクテル」つまりノンアルコールカクテルで鎌田真理さんの手によるもの。ミントとカルダモンを使った「カルダモンモヒート」やトマトジュースを使った「ブラッディメアリー」のノンアルコール&スパイシー・バージョン「ペッパリーメアリー」は、ゆっくり起きた日曜の朝、ボサノヴァでも聴きながら1日を始めるのに最適なはずだ。 そして最後の第五章「基本のスパイスカクテル」では「ホット赤ワイン」など日常的に飲まれている定番カクテルが紹介されているが、この中でひかれたのはローズマリー、ピンクペッパー、グレープフルーツを使った「ジントニックアレンジ」。先日やはりとあるバーでピンクペッパー入りのジントニックを飲んだのだがこれが実に爽やか。むしろ、あっという間に飲み干してしまって困ったほどだ。いずれのレシピも柔らかいタッチのイラストともに掲載されているので、本全体からは柔らかい印象を受けるのだが、そこはやはりトップバーテンダーたちによるオリジナルレシピ。気がつくと本を読みながらも一杯、二杯とグラスが空いてしまいそうで、自宅で過ごすドリンクタイムが楽しくなることは間違いない。そして本書のなによりの魅力は、カクテルにまつわるエピソードとともに世界旅行ができるということ。アジアから中東、そしてヨーロッパへと思いを飛ばしつつカクテルを味わうのは、アームチェアートラベラーにとっては、また格別な時間かと。 「おうちでつくれる簡単レシピ」児島麻理子著 パイ・インターナショナル 1500円(税別)

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