アブルッツォワインとピアーヴェDOPを味わう
アブルッツォ州は、遅れてやってきたエノトリア(ワインの地)である。海と山、両方に恵まれた土地特性によって、労せずしてそこそこのワインを造り出せるという状況が、クォリティワインへの目覚めを遅らせてしまった。しかし、近年は新旧の造り手がその恵まれた土地特性を活かして、上質で個性的なワイン造りに取り組んでいる。まだまだ知られていないが、比較的手頃な価格でユニークな味わいに出会える、それがアブルッツォワインの魅力と言っていい。アブルッツォ州ワイン保護協会はクオリティワインへの関心が高い日本を重要なマーケットと位置付け、積極的にプロモーション活動を行っている。このほど、ヴェネト州のピアーヴェDOP保護協会とともに、EUが主導する「TOP Taste Original PDO, High Quality Products From Europe」(以下TOP)の一環として、プレス、小売店、ディストリビューター向けに、アブルッツォのDOPワインとピアーヴェDOPチーズを味わう会を催した。
TOPは、EU圏外である日本、中国の市場を対象に、ヨーロッパの優れた農産加工品(アブルッツォDOPワイン、ピアーヴェDOP)を通して、ヨーロッパの食品を管理する品質システムの認知度を高め、製品の品質向上及び輸出増を目指すプロモーションである。TOPは文字通り品質の高さを意味するとともに、アブルッツォDOPワインの産地であるグラン・サッソやマイエッラ国立公園などの山岳地帯、ピアーヴェDOPの産地であるドロミティを含むアルプス山脈のイメージも込めている。DOP(原産地呼称保護、英語表記ではPDO)が「品質」「安全性とトレーサビリティ」「サステナビリティ」を保証する認証制度であることを周知することが大きな目的だ。
アブルッツォ州ワイン保護協会は、250社以上のワイナリーが加盟する非営利団体で、DOP及びIGTワインの保護監督を行っている。DOPの主力はモンテプルチャーノ・ダブルッツォDOCで生産量は全体の8割超。このほどTOPではアブルッツォDOC、トレッビアーノ・ダブルッツォDOC、チェラスオロ・ダブルッツォDOC、ヴィッラマーニャDOCもプロモーションの対象としている。ちなみにDOPではなくDOC(原産地呼称統制)というのがややこしくしているが、現在ではイタリアワイン業界特有のDOC認証がDOPとイコールの扱いになっている。
ピアーヴェDOP保護協会は、2010年にDOPに認定されたことを機に発足した比較的新しい保護団体。ベッルーノ県の牛乳製の硬質チーズであるピアーヴェDOPは、熟成段階によって若いものから順に「フレスコ」「メッツァーノ」「ヴェッキオ」「ヴェッキオ・セレツィオーネ・オーロ」「ヴェッキオ・リセルヴァ」の5つに分けられる。ベッルーノの山岳地帯というごく限られた地域で生産されるため、イタリア国内でもあまり流通していないが、チーズの品評会等で安定して高い評価を得ており、まだまだこれから認知度が広がっていくであろうポテンシャルの高い製品だ。熟成期間が2ヶ月〜6ヶ月の「メッツァーノ」はセミハードタイプで、バターやホエイを思わせる香り、甘味と塩味のバランスの良さが特徴で、誤解を恐れずに言えば非常に食べやすいチーズである。12ヶ月以上熟成の「ヴェッキオ・セレツィオーネ・オーロ」は、ナッツや熟した果物の香りなど複雑さが増し、濃厚な旨味と余韻が印象的。食後にワインと楽しみたいチーズである。
今回の会場は東京・表参道の「エトゥルスキ」、メニューはあえてアブルッツォやヴェネトを意識せずに前田拓也シェフが自由に考案した。最初に幾つかの「季節の先付け Inizi di stagione」の後、ズッパ、アンティパスト、魚料理、プリモ・ピアット、肉料理、デザートという構成。ズッパはレンズ豆で、セミハードのピアーヴェDOPメッツァーノを泡に仕立てて添え、プリモの猪のラグーのスパゲッティ・アッラ・キターラにピアーヴェDOPヴェッキオ・セレツィオーネ・オーロをすりおろして供した。ペアリングを目指さなかったことが逆にアブルッツォワインの包容力と、ピアーヴェチーズの応用力、それぞれの底力を示す結果となった。どんな料理にも食べ方にも寄り添えることで、自由な発想を促すワインとチーズ、これから日本の食卓に広く浸透する可能性が高いと言えるだろう。
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