イタリアの「スピリットゥリズモ」を紐解く初めての指南書Spirits dei Luoghi
ツーリズムの前にひと言プラスして◯◯ツーリズムと題した、特定のテーマに沿って組み立てられた旅や観光は、体験型旅行の定番として今や巷に溢れているが、そもそもはアグリトゥリズモあたりから始まったのではないだろうか。農家の仕事を手伝ってもらう代わりに寝泊まりするところを提供するという考えから生まれたアグリトゥリズモも、今では農園が営むホテルと同義になり、その次に広まったエノトゥリズモはワイナリーのホスピタリティを体験する旅としてイタリアのワイン産地(つまりイタリア全土)に旅行者を引き寄せる最大の手立てとなった。それに続いて最近はオリーブオイル産地でもオレオトゥリズモを展開する生産者や生産者組合が増えてきている。 観光立国であるイタリア、そして食がメイド・イン・イタリーの重要な旗印の一つであるイタリアにとって、もう一つ、忘れてはならない旅行テーマがある。そこに光を当てた初めての指南書が「Spirits dei Luoghi」、蒸留酒やリキュールを巡る旅を総括した一冊だ。版元ではツーリズムturismoと未来主義futurismoをかけたFuTurismoシリーズを展開しており、同書はイタリアの蒸留酒、リキュール、カクテルを題材とした旅について、その分野の専門家(レストラン経営者、バーテンダー、生産者、加工業者、旅のオーガナイザーなど)に向けて語っているが、旅行者やスピリッツ愛好家にとっても有益な知識や情報であることは確かである。著者のフェデリコ・シルヴィオ・ベッランカは、スピリッツに造詣の深い食ジャーナリストで、フランスの大学で飲食ホスピタリティ分野におけるマーケティングを学び、ニース、パリ、そしてヴェネトで実務経験を積んだ後、故郷フィレンツェに戻り、ガンベロ・ロッソなどのメディアで執筆、リキュールやカクテルについての書籍出版の傍ら、衛星放送番組で同分野のエキスパートとしても出演している。またWebではWhisky For Breakfastのプロデューサーとして世界中にウイスキーの魅力を発信している。 同書ではまず、スピリットゥリズモSpiriTurismo とはなんなのか、そこを理解してこそ今後に繋がるということで、これまで著者が蓄積した知識とそれに基づく分析を通じて、過去、現在、未来という 3 つのパートで構成されている。 第1部では、スピリットゥリズモの起源をたどり、スコットランドのウィスキートレイル、フランスのリキュール観光といったヨーロッパですでに定着している同様のツーリズムについて紹介、そしてイタリアに目を向けて各地で営まれてきた蒸留酒とリキュール作りの伝統を検証。 第 2 部では、エノトゥリズモの旅程から蒸留所の訪問、酒類文化の普及における修道院や歴史あるカフェの役割まで、イタリアのワイン関連業界の現状を俯瞰。また、フィレンツェのネグローニからヴェネツィアのスプリッツまで、イタリアの象徴的なカクテルとその都市との関係についても考察し、さらにミクソロジーを特徴的なエレメントとしているホテルのホスピタリティに焦点を当てる。 第3部では、イタリアにおけるスピリットゥリズモの今後の展開について概説し、ガイド付きテイスティングやフードとカクテルのペアリングなどよりディープな体験ができるイベントに焦点を当て、蒸留所、歴史的建造物、地域特有の伝統などに着目したテーマ別の旅程を提案している。 ともするとワインの陰に隠れてしまうリキュールやグラッパは、しかし、伝統と歴史に裏付けられたイタリアの紛れもない観光資源である。そこへさらに、食においては貪欲でオリジナリティを追求する努力を厭わないイタリア人の才能が存分に発揮されているミクソロジー世界、それに連なるクラフト・ジンをはじめとする新たなスピリッツの開発など、この分野の動きは目覚ましい。スピリットゥリズモが今後、イタリアでの旅をさらにユニークに彩ることは間違いないだろう。a Spirits dei luoghi https://www.darioflaccovio.it        

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