鍋島の故郷を訪ねて1 富久千代酒造

佐賀県鹿島市・肥前浜宿に蔵を構える富久千代酒造は1923年創業と100年以上の歴史を誇る。戦前には「盛寿」を名乗っていたが、戦後の再出発に際し「千代に栄えて福きたる」との願いを込めて富久千代酒造と改称。現在は銘酒世界中の愛飲家が求める「鍋島」の作り手として名高い。

今回「鍋島」の故郷である肥前浜宿を訪れ、富久千代酒造を特別に見学、取材する僥倖に恵まれた。案内してくれるのは三代目蔵元、杜氏でもある飯盛直喜氏。飯盛氏は1990年代に起きた日本酒における流通環境の変化を目の当たりにし、地域の酒販店と連携して新たな地酒像を築こうと1998年に生み出したのが「鍋島」だった。その名はかつて佐賀藩主を務めた鍋島家に由来する。少量生産、高品質維持のため販売は特約店のみに限定し、蔵での直売や公式のネット販売は行わない方針だ。と「高香や辛口の一点張りではなく、五感にやさしく馴染む自然体の酒」こそが「鍋島」の哲学なのである。

「鍋島」の受賞歴は圧巻だ。富久千代酒造100年の歴史においてエポックメイキングなできごとが2011年のIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)日本酒部門で「鍋島 大吟醸」が最優秀「チャンピオン・サケ」に輝いたことだろう。この受賞をきっかけに一躍世界中の注目を集めることとなったのだ。以後もIWCでの入賞は相次ぎ、2024年には純米大吟醸の部で「純米大吟醸 赤磐雄町米」が金賞、同年は山田錦35%や山田穂の銀賞、各部門の銅賞なども受賞している。国内では全国新酒鑑評会で金賞の常連であり2024年には「大吟醸 山田錦」で金賞を得た。さらに鑑評会や「雄町サミット」でも常に上位を占めている。

まずは飯盛氏に蔵を案内してもらう。富久千代酒造の一号蔵、精米所、麹室は登録有形文化財に指定されており、古い精米所を2014年に改装したギャラリーは建築部門で数々の重傷歴もある。「鍋島」の特徴は、選び抜いた酒米と、これでもか、というほどディテールにこだわった丁寧な仕事にある。原料米は山田錦を柱に、愛山、雄町、とりわけ赤磐雄町、短稈渡船、山田穂、北海道のきたしずくや、蔵の名を冠した「鍋島米」など実に多彩で、それぞれの米の特性を引き出す酒造りが徹底されている。さまざまな酒米を使用するだけに「鍋島」の種類は幅広、まず頂点には純米大吟醸群がある。山田錦35%精米、しずく取り、Black Label、赤磐雄町、愛山、短稈渡船、山田穂、きたしずく、吉川産山田錦Classic、蔵の「鍋島米」。さらに純米吟醸、特別純米、Classicシリーズがある。さらに四季を反映した季節限定の「New Moon」「Blossoms Moon」「Summer Moon」「Harvest Moon」のMoonシリーズもある。また裏鍋島とも呼ばれる「隠し酒」もある。これは純米吟醸の荒走りを集めて生まれた少量限定の裏ラベルで、レオナルド・ダ・ヴィンチを思わせる鏡像文字のデザインもその世界観を色濃く反映している。 

飯盛氏にミーティングルームに案内していただいたが、蔵の中にありながらガラスに囲まれた空間はまるで画廊かコンテンポラリーダイニングを思わせる作り。本来蔵の見学は非公開なのだが富久千代酒造が経営するオーベルジュ「御宿 富久千代」「オーベルジュ Fuku」に宿泊したゲストは特別に見学することができるのだ。今回の佐賀の旅では「御宿 富久千代」「オーベルジュ Fuku」に滞在し「鍋島」を可能な限り味わい尽くす酒の旅だ。次回の記事ではまずオーベルジュ「御宿 富久千代」を紹介したい。


富久千代酒造
佐賀県鹿島市浜町1244-1
Tel:0954-62-3727
https://nabeshima.biz
見学は「御宿 富久千代」「オーベルジュFuku」宿泊者のみ可能


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