シチリア美食の王国へ02 ヴッチリア、バッラロ、カポ市場(無料公開)

南イタリア式お食べ地獄はまず市場見学で予習を
「ヴッチリア、バッラロ、カポ」Ucciria, Ballaro, Capo

1995年に初めてパレルモを訪れた時、パレルモ近郊の当時ミシュラン一つ星のレストランへ行った。真夏の夜、初めてのシチリアで時差ぼけと暑さにしっかりやられてしまった胃袋に次々と出る料理は結構辛いものがあった。普通、イタリアンは、前菜、プリモ(パスタやスープ)、セコンド(肉か魚)の順で最低3皿、応用で5皿、というのがパターン。しかし、例外なき基本はない。「おまかせで」などと頼むと前菜が一皿、二皿、と始まって、気がつくと前菜らしいものが五皿目を越えていることがある。そろそろパスタとかリゾットなんかが欲しい(というよりも、先を思い遣って心配になり始めている)と思う頃、ようやくパスタがくる。しかし、ここでもパスタが二皿くらいで留まればラッキー、下手すると三皿目がくることもザラだ。そしておもむろにセコンドへ突入。この時点では、セコンドは絶対一皿だけにしてほしいと思っている。

イタリアにおいては、南や北の端に行く程、この傾向は顕著である。題して、『田舎式お食べ地獄』。クライマックスと終焉の予想がつかないコース料理をいう。もはやこうなってはコースとも言えないかもしれないが。

そのお食べ地獄の前にまずは市場見学。パレルモには大きな食の市場が三つある。

一つは「ヴッチリア(ウッチリアとも言う)。現存する一番古い市場で、少し前までは活気ある下町一番の市場だった。しかし、今は昔のその面影はない。店の並びもまばらだし、魚や野菜など、並ぶ商品だってくたびれているようなものもある。市場の立つ界隈の建物はもうぼろぼろで、ほとんどが廃屋だ。だから、夕方から夜にかけての市場の閉まる時間帯は、ちょっと不気味で人が寄り付かない。その時間帯は麻薬関係者がたむろする危険地帯にもなっている。

それでも、この市場にはマグロが並ぶ名物魚屋や、ゆでタコ屋、ミルツァという牛の脾臓をくたくたに煮込んだモツ屋、濃縮トマトペーストを売る乾物屋など、映画や雑誌でもさんざん取り上げられた店がまだ残っている。何十年も変わらないパン屋、ネコが店番をしている八百屋など、無名だけれど、味のある店もまだまだ多い。

二つ目の市場は「バッラロ」。先のウッチリアよりも駅に近く、規模も大きい。延々と魚、野菜、肉、パンなどの露天が軒を列ねる。この市場も周囲は廃虚かそれに近いような建物ばかり。昼日中はいいけれど、夜はちょっと入り込みたくない界隈だ。なんだかウッチリアといい、バッラロといい、危ないところばかりのようだが、日中の市の立つ間はそれは活気があって楽しいし、スリにさえ気をつけておけば、カメラ片手にうろうろしてもなんら問題はない。いまにも崩れ落ちそうな建物とたくましく生きる下町の人々。誰だって思わずシャッターを切りたくなる光景。いつか近代的な(味気ない)建物に変わってしまうかも知れないそんな風景を見ないでおく手はない。

三つ目は、「カポ」と呼ばれる。映画「ゴッドファーザー3」の最後の舞台となったマッシモ劇場の裏に広がる中規模の市場だ。比較的新しいが、庶民から優雅なマダムまでが買い物にやってくる。羊の腸を月桂樹やたまねぎと一緒に串にぐるぐる巻いたものとか、仔羊の頭が2000リラ(当時100円)だったとか、日本では見たことも聞いたこともない世界が繰り広げられていて、本当にめくるめく思いをしたのはここだ。

Vucciria(ヴッチリア):ヴィットリオ・エマヌエーレ通りとローマ通りの交差点、サン・ドメニコ教会広場から海側の一帯。
Ballaro’(バッラロ):ローマ通りから南、カルミネ教会広場周辺。
Capo(カポ):マッシモ劇場裏手南側。

営業はどこも午前中のみ、ほぼ13時まで。日曜休業。