シチリア美食の王国へ06 ソット・ソープラ@パレルモ

インテリが多いから?ワインバー急増のパレルモ

ナイトライフはカターニアだけど、パレルモには文化がある、というのがパレルモ人の口癖。彼らのいうナイトライフとは、パブとかディスコに出掛けることを指す。最近はロカーレとも呼ぶ、クラブとレストランが合体したような流行のスポットもパレルモよりカターニアに目立つ。

パレルモ人がいう文化とは、街の素晴らしい建造物はもちろんのこと、やはり常に島の中心であったという自負からくるさまざまな「洗練」だ。それが食の分野となると、もっとも趣味性の高いワインへと向かうのは当然といえば当然である。

そういうわけで、パレルモには意外とワインバーが多い。スローフード協会のパレルモ支部が店の立ち上げからコンセプト・メイキングに参加した「オステリア・デイ・ヴェスプリ」、クスクスやエスニック料理を取り入れたメニューもユニークな「ミ・マンダ・ピコーネ」、メタリックなインテリアが人目を引くガラス張りの「ソット・ソープラ」など、ここ数年のうちに登場して、すぐに固定客がついてしまったという店も多い。どの店も客層は30代から40代中心、カジュアルだけれど上質志向。ポケットマネーで、いいワインとちょっと洗練された料理を楽しもうという気持ちでやってくる。こういう現象の背景にはスローフード協会の影響もある。各地に残る伝統的な食を見直し、土地の性質をいかしたワインやオリーブオイル生産を奨励し、またそういう意識を広めようという働きかけは、高学歴層が増えた現代イタリアにしっかり食い込んだといえる。それが、先の30代、40代の都市生活者のワインバー志向にもつながっている。

そのせいか、日本のワインバーとはちょっと雰囲気が違う。まず、かなりカジュアルである。珍しいワインをめぐって議論の花咲くこともあるが、概ね、のんびりした空気である。イタリア人は自分が知らないからといって恥じるなんてことはなく、初歩的な質問もどんどんするし、聞かれると答えるのが何より好きなものだから、答えるほうも積極的。また、昼間に営業しているところも少なくないし、夜は比較的早くて12時閉店と健康的なワインバーが主流である。

Sotto Sopra(ソット・ソプラ)
Via XII Gennaio,1h Palermo
Tel091-6124736
不定休 予算目安:35ユーロ

こういったワインバーをいち早く仕掛けたのが「エノテカ・ピコーネ」のニコラ・ピコーネ。父から引き継いだエノテカをパレルモ一、否、シチリア一番の品揃えと評判の店にしたニコラは、稀少ワインの発掘、つまり少数生産の(時に偏屈な)作り手の元へ出掛けていって、そのワイン造りをバックアップしたり、各地の試飲会や催しに出掛けていっては新しい情報を熱心に仕入れてきたりと、休みなく飛び回っている仕事の虫。イタリアは1人の仕事ができる人の上に何もしない100人がのっかっている国とよく冗談でいうが、ニコラは間違いなくこの1人のほうに属するタイプだ。しかもこのタイプは、仕事をばりばりこなしてます、という素振りを全く見せないのも特徴で、ニコラもおっとりと物静か、精力的な雰囲気は微塵も感じられない。

そのニコラの最初のワインバーが「ミ・マンダ・ピコーネ」。この店は、エノテカ・ピコーネの膨大なワインストックがそのままリストになっているとまず評判を呼び、次いで料理の面でも、シチリア料理をベースに世界各地のエッセンスを取り入れ、パレルモ初のフュージョン料理を成功させた。パレルモ・ワインバー・クロニクルの一ページをなした店である。

その後、ワインバーではないが、洗練された料理と上質なワインを楽しむリストランテ・エノテカ「グスト・ディヴィーノ」の経営者の1人となる。リストランテといえばクラシックなインテリアの中でしっかりとボリュームのある料理というイメージだったのを、ライトで押し付けがましくない今風のインテリアと新解釈の軽いシチリア料理をイタリア各地からの珍しいワインと一緒に楽しむところとした。

そして、ニコラの最新プロジェクトが、2002年秋、パレルモの旧市街からかなり離れた新市街に誕生した「グルメ・バール」という名のエノテカ・トラットリアである。天井の高い店内は開放感があり、その壁にはワインがずらりと横に縦に並び、地震があったらちょっと恐いようなディスプレイだが、まぁ実に壮観ではある。そして料理は、アンティパスト、プリモ、セコンドのほかに、スシ・ミストとテンプラがある。このスシとテンプラ以外は、ワインに合わせることを念頭に置いた軽くシンプルな料理で、メニュー監修はミシュラン二つ星の「イル・ムリナッツォ」のシェフ、ニノ・グラツィアーノである。ところで意外なことに、パレルモでスシを出す店というのはここが初である。カターニアに遅れ、ようやくという感じで登場したここで、スシを握るのはオーストラリアのスシ・バーやアメリカズ・カップに参加するプラダのヨットチームの専属料理人を勤めた伊藤尚文さん。日本の正統寿司とは違う変化球なスシを出す。クスクススシ、ゼリー寄せ、サーモンにフェンネルとイクラの握りなどいかにもガイジン好み。練りゴマとしょうゆのソースで食べるツナののり巻きテンプラはパレルモ人にも評判がいいらしい。ニコラ曰く「パレルモの住民70万人のうち1000人でも気に入ってもらえればいい」とスシを出すことにしたらしいが、果たして満員盛況、周囲のイタリア人たちは皆慣れない箸でスシをつまんでいた。またしてもニコラがパレルモの食を一歩前進させたようである。

Enoteca Picone(エノテカ・ピコーネ)
Via Marconi, 36 Palermo
Tel091-331300 日曜休み

Gusto DiVino(グスト・ディヴィーノ)
Corso Pisani,30 Palermo
Tel091-6457001
無休 予算目安:40ユーロ

Gourmet Bar(グルメ・バール)
Viale Strasburgo,235 Palermo
Tel091-6880357
日曜休み 予算目安:30ユーロ

Osteria dei Vespri(オステリア・デイ・ヴェスプリ)
Piazza Croce dei Vespri,6 Palermo
Tel091-6171631
日曜休み
予算目安:29ユーロ

Mi Manda Picone(ミ・マンダ・ピコーネ)
Via Paternostro,59 Palermo
Tel091-6160660
日曜休み、夜のみの営業
予算目安:29ユーロ
店名は“ピコーネに送り込まれました”という意味で、誰それの紹介でこのお店に来たのですが、という時に使うフレーズである。