ヴェネツィア酒場紀行3 悪魔と聖水 Diavolo e Acquasantaのビーゴリ・イン・サルサ
ペスケリア市場周辺で食事する際、なんとなく足が向いてしまうのがこの「ディアヴォロ・エ・アックアサンタ Diavolo e Acquasanta」イタリア語で「悪魔と聖水」という意味のトラットリアだ。この店は朝は9:30からバーカロとして営業が始まり、昼夜はトラットリアとして料理を食べることができる。厨房のあるバーカロには名店が多い、という金科玉条を地でいくような店だ。朝10時頃に店を訪れてみると厨房では仕込みの真っ最中。カウンターのショーケースにはすでに仕込みを終えたサルデ・イン・サオールやポルペッティーネ、タマネギやラディッキオのフリットなどが並んでおり、これらをひとつつまみつつ立ち飲みでワインを一杯、という地元の男衆が多いのも魅力だ。この日も朝に一度立ち飲みで訪れ、夜には再び食事に訪れた。

Spaghetti al nero di seppia

ペスケリア市場を見てみるとわかるが、ヴェネツィア湾ではスミたっぷりのコウイカ(スミイカ)が大量に獲れるので日常的に料理に使われる。代表的なのがスミを使ったパスタ「スパゲッティ・アル・ネロ・ディ・セッピア」だろう。シチリアで食べるイカスミ・パスタは文字通り真っ黒で、粘土も高くたじたじとなるほどだが、写真を見ればわかるがヴェネツィアのものはそれにくらべると一般的に色も薄めであっさり目なことが多い。とはいえ肉厚のイカがたっぷり、ピアット・ウニコに近い感じなのでボリューム満点。満足感は高い。

Bigoli in salsa

ビーゴリ、とはヴェネト地方のパスタで00または全粒粉を使い、トルキオという押出し機で押し出して作るパスタだ。つまり産業革命以降に開発されたスパゲッティの製法と同じで、押し出し式ゆえにパスタの表面は多孔質になりソースを吸いやすい。一方綿棒やパスタマシンで伸ばしてから切る、たとえばタリアテッレやタリオリーニなどは押し出し式に比べると生地が滑らかになるのでかみごたえよりも喉越しや滑らかさを重視した仕上がりになる。特に全粒粉を使った場合のビーゴリはなんともいえない独特の食感が特徴だ。伝統的にソースはタマネギとアンチョビで、ヴェネト地方の伝統では肉断ちをする日によく食べられる。即ち「謝肉祭」カーニバル期間でいうならば聖金曜日や灰の水曜日は伝統的にはビーゴリ・デイだ。タマネギとアンチョビという組み合わせはあまじょっぱくてなんとなく塩辛を思い出させるノスタルジックな味なのだ。

Spaghetti alle vongole

パスタをもう一品、スパゲッティ・アッレ・ヴォンゴレをとる。イカスミもそうだが、スパゲッティに関していうならば写真を見れば分かるがヴェネツィアの好みは柔らかめ。そして非乳化でオイルたっぷり、というのが特徴だ。昔からヴェネツィアは、プーリアからアドリア海経由でワインやオイルが運ばれてきたこともあり北イタリアにしてはオリーヴオイルはたっぷり使う。アサリはマイルドで小粒、ナポリなどティレニア海側の水管が長いアサリに比べると控えめでマイルドな味わい。

Fritto misto

ヤリイカ(カラマロ)、エビ、ヒシコイワシなどを軽めのパステッラでさっくり揚げたフリットはヴェネツィアの華である。どの店で食べても美味しいし、ハウスワインによくあう。

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