テロワールの違いを如実に表現、ノン・ドザージュのフランチャコルタを味わう@Il Ristorante Luca Fantin, Bulgari Ginza Tokyo
  1995年、瓶内二次発酵ワインとしてイタリアで初めてDOCG(統制保証原産地呼称)の認定を受けたフランチャコルタは着実に成長を続け、今やイタリアを代表するプレミアム・スパークリングワインとして揺るぎない地位を確立している。品質向上はもちろんのこと、ビオ(有機農法)への転換、SDGsを念頭に置いた生産体制への移行、さらにはミラノからほど近い立地を生かしたモード界との連携、文化支援など多岐にわたって総合的に発展を続けている点で、イタリアワイン業界では特異とも言える抜きん出た存在である。さらには11月23日に行われたイタリア・ミシュラン2022の発表がフランチャコルタで行われ、今後3年間にわたって同地が発表会場となるという、他のワイン産地ではまず考えられない進取の気性に富んだ産地でもある。 ミラノから車で東に向かって1時間弱、ラエティア・アルプスの分脈に続くイゼオ湖南側のなだらかな丘陵地隊がフランチャコルタと呼ばれる一帯で、総面積200㎢、19の自治体が存在する。イタリアではかなりの北に位置する内陸だが、イゼオ湖のおかげで温暖な地中海性気候を享受し、葡萄やオリーブの栽培に適している。しかも、氷河によって削られ押し流されてきた岩石や土砂が堆積し、土壌には豊富なミネラルなどが含まれるため、ワインに欠かせない複雑味が自然と備わるというまさに天与のワイン産地である。 ワインとしてのフランチャコルタには5つのカテゴリーがあり、シャルドネ、ピノ・ネーロ、ピノ・ビアンコ、エルバマットをブレンドするベーシックな「フランチャコルタ」、シャルドネ、ピノ・ビアンコといった白葡萄のみで造られる「サテン」、「ロゼ」、瓶内熟成30ヶ月以上で収穫年を記す「ミッレジマート」、瓶内熟成60ヶ月以上の「リゼルヴァ」に分けられる。さらに残糖量別に3gまでの「ノン・ドザート」、6gまでの「エクストラブリュット」、12gまでの「ブリュット」、12g〜17gの「エクストラドライ」、17g〜32gの「セック」または「ドライ」、33g〜50gの「ドゥミセック」がある。
左からMajolini Franciacorta DOCG Pas Dose、Bellavista Franciacorta Alma Gran Cuvee Non Dosato、Andrea Alici Franciacorta Dossaggio Zero “Rose”
このほどフランチャコルタ協会日本事務局が開催した、東京・ブルガリ銀座タワー8階「イル・リストランテ ルカ・ファンティン」でのフランチャコルタ・ランチは、ノン・ドザート3種類の味わい比較がテーマ。ナビゲーターはワイン・ジャーナリストの宮嶋勲氏である。まずアペリティーヴォとして「ABRAMI Franciacorta Saten」が供され、その後、料理とともに3銘柄のノン・ドザートが注がれた。 宮嶋氏曰く「まず、サテンはシルクという意味からもわかるようにデリケートな味わい。だが、フランチャコルタらしい果実味が感じられる。しばしばフランチャコルタはシャンパーニュと比較されることが多いが、気候風土がもともと異なる。今のような温暖化が進む以前のシャンパーニュはワイン産地としては北限であり、葡萄が未熟に終わるためスティルワインの生産は難しかった。そこで瓶内二次発酵を行うことで酸っぱい酸はエレガントな酸に、未熟の果実味は爽やかな果実味となって現在の名声を得るに至った。一方、フランチャコルタはシャルドネのスティルワインも高い評価を得られる産地。故にスパークリングもしっかりと果実味の備わったものとなる。そして、優れたスティルワインができるということは、シャンパーニュのような補糖をしなくても基本的には問題ないということでもある。補糖しないということは、つまりそのぶん、テロワールを感じられるということでもある」。
Capesante e pomodoro 帆立とトマト Bellavistaとともに。
最初のノン・ドザートは「BELLAVISTA Franciacorta Alma Gran Cuvee Non Dosato」シャルドネ90%、ピノ・ネーロ10%。現代フランチャコルタのあるべき姿はノン・ドザージュであるという信念のもとブレンドを究め、2019年にリリースするとたちまちガンベロ・ロッソのトレ・ピッキエーリの評価を受けたベッラヴィスタの新作。葡萄の平均樹齢25年、一部(15%)小樽で発酵、最低30ヶ月の熟成を行う。きめ細やかな泡立ち、白い果実のアロマと複雑で長い余韻、エレガントで均整のとれたノン・ドザートである。
Risotto Franciacorta hamaguri ハマグリのリゾット、フランチャコルタのソース Majoliniとともに。
続いては「MAJOLINI Franciacorta DOCG Pas Dose」シャルドネ100%。マヨリーニは海抜170〜500mの間に散らばる24箇所の畑から集められた葡萄を用いて、シャンパーニュ由来の酵母を使って瓶内二次発酵を30ヶ月以上行う。メドーロ(石灰岩質の地層)がもたらす豊かなミネラル、そして爽やかな柑橘から濃厚なトロピカルフルーツまでさまざまなニュアンスの果実味、軽やかな酸味と微かな苦味をも持つ、複雑で奥行きのある味わいが非常に印象的な一本。
Pesce cacciucco ricci di mare 鰆の低温調理、カッチュッコソース、雲丹を添えて Andrea Aliciとともに
最後は「ANDREA ALICI Franciacorta Dossaggio Zero “Rose”」ピノ・ネーロ100%。フランチャコルタのほとんどの葡萄畑は平地にあるのに対し、アンドレア・アリーチの畑はフランチャコルタの東端にあり、海抜400m、8箇所に分かれた段々畑で有機農法を行なっている。特質は塩っぱいと感じるほどの硬質な余韻。その個性を際立たせるため、ドザージュは不要というのが信念で、果実味の豊かさを特徴とするフランチャコルタの中では特殊かつ斬新なスタイルとして注目を浴びている。このロゼも酸とミネラルがしっかりとしたキレのある味わいである。 ノン・ドザートという同じカテゴリーであっても土地特性、そして造り手の意図は明確に異なる。比較試飲すればその違いが如実にわかる上、これほどに違いがはっきりしていれば、料理とのペアリングにおいても面白く、変化が楽しめる。現在、フランチャコルタには121のワイナリーがあり、それぞれが独自のフィロソフィで個性を磨いている。今後も次々と新しくユニークなフランチャコルタが世に送り出されることは間違いない。

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