世界最大級のワイン見本市、その熱狂と現在地——Vinitaly 2026現地レポート

2026年4月12日から15日までの4日間、イタリア北部ヴェネト州ヴェローナで、第58回「Vinitaly(ヴィニタリー)」が開催された。会場となったVeronafiereには、およそ4,000社が出展。世界135カ国から約9万人が来場し、そのうち26%を海外バイヤーやインポーター、ソムリエ、ジャーナリストなど国際関係者が占めた。欧州経済の不安定化、物流コストの高騰、世界各地の地政学リスクといった逆風が吹くなかでも、Vinitalyは依然として“イタリアワイン最大の商談拠点”としての存在感を示したのである。

毎年春、ヴェローナは世界のワイン関係者によって埋め尽くされる。古代ローマの円形闘技場アレーナ周辺のバールは深夜まで賑わい、ホテル価格は跳ね上がり、鉄道駅には大型スーツケースと試飲バッグを抱えた人々が行き交う。地元掲示板やSNSでは「宿が取れない」「近郊都市から通うしかない」といった声も上がり、この巨大イベントが都市経済へ与える影響の大きさを物語っていた。

会場に一歩足を踏み入れると、そのスケールに圧倒される。イタリア20州が巨大パビリオンを構え、トスカーナ、ピエモンテ、シチリア、ヴェネトなど主要産地はもちろん、小規模生産地域までもが独自色を競い合う。さらに海外出展エリア、蒸留酒エリア、ノンアルコール・低アルコールカテゴリー、ワインツーリズム関連展示などが複層的に展開され、単なるワイン見本市ではなく、“飲料文化産業総合展”へと進化していることが実感できた。

2026年のVinitalyを特徴づけたキーワードの一つが「No-Lo(ノンアルコール・低アルコール)」である。今年は新フォーマットとして専用エリアが強化され、若年層マーケットや健康志向市場を見据えた提案が目立った。欧州ではアルコール摂取に対する意識変化が急速に進んでおり、イタリアワイン界も例外ではない。従来の“伝統とテロワール”を前面に押し出すだけでなく、新しい飲酒文化への対応が急務となっているのである。

また、スピリッツ部門の拡張も今年の大きなトピックであった。グラッパやアマーロのみならず、クラフトジン、ベルモット、ボタニカルリキュールなどが数多く紹介され、バー業界関係者の姿も目立った。ワイン市場が世界的に伸び悩む一方、プレミアムスピリッツ市場が成長を続けている現状を反映した構成と言える。

一方で、Vinitalyの本質はやはりBtoBの商談機能にある。今年は70カ国以上から1,000人超のトップバイヤーがイタリア政府貿易振興機関ITAとの連携で招聘された。北米、ドイツ、英国、スイス、北欧諸国といった既存重要市場に加え、中国、ブラジル、メキシコ、韓国、東南アジア諸国、さらにはアフリカ諸国からの参加も目立ち、市場多極化の流れが鮮明となった。

特にアジア市場への期待感は大きい。日本、中国、韓国、ベトナムからの来場者数は前年を上回り、多くの生産者がアジア向け専用試飲や輸出相談を実施していた。円安や輸送費高騰によって日本市場は厳しさを増しているが、それでもイタリア側の関心は高い。会場では日本語資料を用意するブースも珍しくなく、寿司とのペアリング提案や、和食市場向け低アルコール提案など、具体的な営業戦略が進んでいた。

さらに今年は「Vinitaly Tourism」が存在感を強めた。ワインを単なる輸出商品としてではなく、“旅の目的地”として訴求する動きである。ヴァルポリチェッラ街道との連携企画では、試飲チケット購入者に実際のワイナリー訪問特典が付与され、フェア終了後も地域へ送客する導線が設計された。ワインツーリズムはイタリア地方経済における重要戦略となっており、各州パビリオンでも宿泊施設、レストラン、オリーブオイル、文化遺産との連動が強く打ち出されていた。

会場外イベント「Vinitaly and the City」も、もはやフェアの重要構成要素となっている。歴史地区を舞台に開催される一般消費者向けイベントであり、夕刻以降のヴェローナ旧市街は巨大なワインフェスへと変貌する。若年層や観光客を取り込むこの施策は、プロフェッショナル主体だったVinitalyの裾野を広げる役割を果たしている。今年は新企画「Vinitaly & the Night」も導入され、音楽やナイトカルチャーを融合した演出が話題を呼んだ。 

もちろん、華やかな側面ばかりではない。会場で繰り返し聞かれたのは、世界ワイン市場の減速に対する危機感であった。欧州では若年層のアルコール離れが進み、中国市場は以前ほどの勢いを失い、アメリカでも消費構造が変化している。自然派ワイン、オーガニック、低介入醸造、サステナブル農法といったキーワードはもはや“差別化”ではなく、最低限求められる条件になりつつある。

今年はイタリア政府関係者の動きも活発であった。ジョルジャ・メローニ首相も会場を訪れ、「メイド・イン・イタリー」の重要性を強調。農業、観光、輸出産業としてのワインを国家戦略の中核に位置づける姿勢を示した。ワインは単なる嗜好品ではなく、イタリア文化そのものとして扱われているのである。

そして、何より印象的だったのは、世界中のワイン関係者が依然として“リアルな場”を必要としている事実である。オンライン商談やデジタル試飲会が普及した現在でも、実際に会い、グラスを交わし、香りを共有し、言葉を超えた信頼関係を築く行為は代替できない。Vinitalyはその原点を再確認させる場であった。

2026年のVinitalyは、単なる成功した見本市ではない。世界市場の変化、消費者意識の変容、サステナビリティへの対応、観光との融合、新世代への訴求、そうしたワイン業界の現在地を凝縮した巨大な縮図であった。伝統を守りながら変化を受け入れる。その難題に、イタリアワインは真正面から向き合っている。世界のワイン産業が転換点を迎えるなか、ヴェローナの熱狂は今年も続いた。そしてその熱狂は、単なる祝祭ではなく、未来を模索する産業のエネルギーそのものだったのである。

注:Vinitaly 2026は2026年4月12日〜15日に開催。次回2027年大会は4月11日〜14日に開催予定。


SAPORITAをもっと見る

購読すると最新の投稿がメールで送信されます。